新しい評価と高校入試 取り組み事例1
新潟県新潟市白新中学校


●取り組みの要点
  1. 白新中学校では、長年実施している学力テストの偏差値を3年前から保護者に公表するようになった。その結果、先生たちは具体的な数値を意識した指導をするようになって年々成績は向上し、結果として高校入試の実績も上がった。
  2. 絶対評価が実施される今年度から、「学習指導要領レベルの基礎・基本をマスターすれば3」とし、すべての生徒に3までの力をつけさせることを基本に、進んでいる生徒にはさらに高い目標を持たせた授業を実施することにした。そのために評価基準と連動した単元別のカード(評価票)を生徒に持たせ、つねに目標を意識した学習をするようにし向けている。
  3. 同校の新しい学力評価のポイントは、「無理なく」ということ。評価項目を絞り込み、授業と評価が本末転倒にならないように配慮した。


●基本情報
松田正實校長、生徒数270人、11学級(難聴学級、病院内学級各1含)
●学校住所
〒951-8133 新潟市川岸町2丁目4番地
電話 025-266-2136 FAX 025-266-2137
●ホームページ
http://www.niigata-inet.or.jp/hakushin-j/
●学校の環境
日本海側最大の都市・新潟市のほぼ中心部、信濃川の東岸に位置する白新中学校は、周囲には裁判所や市役所をはじめとした国や市の中枢機関や文化・スポーツ施設などが集まり、落ち着いた環境にある。新制中学校スタートの昭和22年に創立。かつては50学級規模の大規模校であったが、ドーナツ化現象と少子化などのために、現在の中規模校になった。創立当時から研究熱心な学校として知られ、保護者も教育に関心が高く、その伝統は今でも受け継がれている。国際交流もさかんで、韓国の蘆原中学校と姉妹校になっているほか、各国の親善使節団、交流団が度々訪れている。



■数値を意識することで学力が伸び、高校入試の実績も上がった■

●学力テストの偏差値を保護者に公表する
 白新中学校では、生徒の学力実態を継続的に把握するために、毎年1回、全国標準学力テスト(教研式)を受けているが、その偏差値を3年前から、学年別、教科別に一覧表にして公表している。
「真正面からぶつかって指導方法を改善していかないと、学校は社会の歩みから取り残される。そういう危機感からデータ公開を始めたのです。これからの学校は、勘や経験に頼るのではなく、目標値を決めて学力を上げることが求められているのです。保護者からもデータの公開に関してのクレームはありません」と、松田校長は公表の理由を話す。
 新潟県では、現在進行中の「新潟県第8次総合教育計画」にも、「全国標準学力テストの県平均偏差値を2005(平成17)年度までに50にする」という目標が掲げられている。その目標はすでに2002(平成14)年度にクリアしたが、同校の取り組みの背景には、こうした県を挙げての学力向上の施策があることも見逃せない。
「今年度から絶対評価になりましたが、自校の絶対評価の尺度と評定の分配の根拠を明確にすることが重要です。そのためには、子どもに力がついたかどうかの判断はなんらかの客観的な測定方法でするしかない。そういった意味からも、この学力テストは一つの目安になります」(松田校長)
 では、偏差値を公開することによって、数値は上がったのだろうか。
「すべての学年・教科が右肩上がりというわけにはいきませんが、全体として確かに上がりました。例えば現3年生の数学は入学当初51.5だったのに、2年生で53.1、3年生で56.1となり、英語は2年生で54.3だったものが3年生で57.7まで伸びています。国語、社会、理科も2年時よりも伸びています」(松田校長)。さらに、県の「中学校教育研究会」が実施する統一テストでも、3年生の5教科県平均62.1、市平均63.4に対して、白新中では70.9という抜きん出た数値が出ている。そして結果として、高校入試の実績も上がっている。「いくらきれいごとを言っても、進学実績をともなわないと、保護者は学力が向上したとはみなしません」「学力向上=進学実績という側面にも中学校は応えていかないといけないのです」と、松田校長は話す。
●基礎・基本をマスターすれば3。さらに上を目指させる
 もちろん、目標を掲げるだけでは、数値は上がらない。国・数・英の3教科でチーム・ティーチングを実施し、少人数指導体制を組むなどの方策がとられてきた。そして絶対評価元年の今年度は、「①学習指導要領はすべての生徒に習得させる基礎・基本で、それをマスターすれば絶対評価の3になる。②基礎・基本をマスターした生徒には、さらに上の目標を目指させる」ということを保護者向けにはっきり打ち出した。つまり、個人の進度に応じた学習を進めるということだが、同じクラスのなかで、基礎、標準、発展、それぞれの学習ができるようにした。「同質集団では、とりわけ標準レベルの生徒には刺激が少なく、よい効果をもたらすとは思えません。同じ教室のなかに基礎を学ぶ子、発展を学ぶ子がいてこそ刺激になるし、目標にもなります」と、松田校長。
 一つの教室のなかで異なる目標を持った生徒が同時に学ぶためのしかけが、各教科で単元ごとにつくられた評価票(図版参照)である。それぞれの観点に、AとBの基準が示されている。Bはすべての生徒に到達してほしい目標であり、Aはさらに発展的に学ぶための目標である。この評価票は、年間指導計画、さらに評価基準をもとに、具体的な授業展開を考えながら、先生たちが苦労して1学期分をつくりあげた。生徒たちはこれを常に携帯し、授業の区切りで自己評価し、さらに最終的には先生に評価してもらう。この積み上げが学期末の評価につながっていく仕掛けになっている。
●無理なくできる評価をめざして
 生徒に評価票を持たせながら授業を進め、「指導と評価の一体化」を模索している同校が、評価規準・基準づくりで心がけたことは、「実際に使えるかどうか」ということ。とりわけ「意欲・関心・態度」の評価項目が多くなりすぎると、どうしてもそればかりに気をとられ、授業がおろそかになりかねない。そこで、国立教育政策研究所の規準を参考にしながらも、どんどん見直していき、最終的には「意欲・関心・態度」の観点については、「自分のやるべきことに真剣に取り組んでいる」の項目だけに絞り込んだ。教科の特性で増やしたいときにも、1~2項目に抑えた。そして、評価の割合も10%を基本とし、多くとも20%以内とした。また定期テストも、今年度からは作問を焦点化していくようにした。
「わが校の評価は、無理なくできるのが売り物です。もしそれで時間の余裕ができれば、遅れがちな子の指導や発展教材づくりに時間をかけたいのです」(研究主任・伊藤守先生)
 数値目標を掲げた厳しい実践、一歩先を行く試みをしているにもかかわらず、先生方になんとなくゆとりが感じられるのは、こうした「無理なく」という姿勢なのかもしれない。
■白新中の単元別の評価票、国語科1年の例



「はじまり」の単元の場合。例えば「書く」の欄に、すべての生徒に到達してほしい目標B「自分の思いを、短歌で表現することができる」と、さらに上の目標のA「比喩や体言止め、倒置などの表現法を用いて創作することができる」が示されている。
 裏側は、生徒の実態を調べたり、学習への希望・感想を書くのに使われる。
■TTによる数学の授業。30人の生徒に先生2人だから、一人ひとりによく目が届く


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