新しい評価と高校入試 取り組み事例2
青森県青森市立油川中学校


●取り組みの要点
  1. 油川中学校では、個に応じた指導の一環として、1999年の2学期から、3年生に対して習熟度別学習を実施している。その内容は、国語・社会・数学・理科・英語の授業を、5教科の総合成績に応じて分けた、A、B、C、Dの4グループで行うというものである。グループの人数は均等ではなく、A、Bが多く、C、Dは少人数にしてきめこまかな指導を行っている。生徒指導上の配慮もあって、基本的には1教科1人の先生がABCDすべてのタイプを授業を行うので、時間割編成の苦労がついて回る。
  2. この取り組みは、1年がかりで地域や保護者の理解を得たうえで実施されたが、結果として、県立高校および国立高専への進学率を上げて、進学意欲の高い保護者から、さらに支持を得られるようになった。


●基本情報
青山栄明校長、生徒数393人、11学級
●学校住所
〒038-0058 青森市大字羽白字沢田471番地
電話 017-788-0428 FAX 017-788-0614
●学校の環境
油川中学校は、青森市の北西部、松前街道沿いの油川地区の中心にある。油川地区は青森発祥の地といわれる古い歴史を持つ町で、何代にもわたって住んでいる住民がほとんどだったが、近年、市の中心部へのバイパスができてから、新しい住民も増えてきた。地域と学校との結びつきは強く、一人暮らしのお年寄りの家の除雪作業を生徒が買って出たりして感謝されている。部活や学校の行事には、町ぐるみで応援してくれる。保護者の職業は農業や水産業から公務員・サービス業まで多種多様であるが、地場産業が少ないことから、わが子には学力をつけて大学へ進学させ、都市部へ就職させたいとの願いを持っているため、多くは教育熱心である。



■高校進学を意識した5教科の習熟度別学習で、生徒の希望をかなえる■

●ヒントは、スポーツの指導
 新教育課程が実施された2002年度から、多くの学校で習熟度別学習が取り入れられるようになったが、たいていは補助的に行われ、まだ学習の中心ではない。しかし、油川中学校3年生の主要5教科の学習は、習熟度別グループでの授業が基本となっている。
 スタートは、習熟度別学習が公立ではまだ珍しかった1999年の2学期。きっかけは、前年、同校に青山校長が赴任したことだ。当時、生徒の学力差が先生方の悩みの種だった。定期テストをすると、標準偏差が20を超え、教科によっては25を超えることもあり、通常の指導形態では、生徒の個人差に対応できなくなっていた。にもかかわらず、わが子を少しでも進学実績の高い高校へ進学させたいという保護者の意識は年々強くなってきていた。
 元体育教師であった青山校長は、バスケットなどを指導した経験から、「レベルの違う選手に同じ練習をさせても伸びない。レベルに合ったメニューを与えることが大事。教科の学習でも同じはずだ」と考え、習熟度別学習を提案した。もちろん、最初は先生方のなかでも戸惑いがあり、繰り返し議論が続けられた。青山校長は、まず、地域の会合にまめに顔を出すなどし、保護者や地域との信頼関係づくりに努め、2年目から実行に移した。
 具体的なグループ分けは、定期テストの成績、生徒の希望、人間関係などを総合的に判断して行われる。5教科の成績から割り出したグループ編成と生徒の希望の相関表をつくり、それがずれる場合には、担任が面接をする。「きみはBを希望しているが、一つ上のAで頑張ってみないか」というようなアドバイスもする。だが、生徒の意思が固いと判断した場合には、むりやり動かすことはない。
 一人の生徒にも教科によって学力差はある。例えば、国語や社会はAの力があっても、数学・理科はCという生徒もいる。「そのような場合は、総合的にみて、おそらくBになると思います。教科ごとに習熟度に対応しているわけではなので、同じグループでも学力差があることを前提にしています。ただし、その差が偏差値にして1桁に止めたいと思っています。そのために、生徒の成績の分析には非常に神経を使っています。ただ、『最後は個人指導でフォローせよ』と校長から言われています」と、教務主任の久慈先生。
●生徒指導上の配慮で、一人の先生が全グループを指導
 なぜ、教科ごとの習熟度ではなく、総合成績でクラス分けをするのか? 理由は、大きくは2つ。先生の数の問題と、生徒指導上の問題だ。
 まず、習熟度別授業を始めるに当たっては、現在在籍する先生で行うことが前提だった。つまり、グループの数だけ教科担当がいないという現実があった。しかし、「仮に教師の数がそろったとしても、習熟度別に違う教師が受け持つと、学級担任であっても、一度も授業を受け持たない生徒が出てくる。それでは生徒指導上問題があると考えました。また、所属するグループで担当する教師が違うと、保護者は不安を抱きます」(久慈先生)。
 その結果、同一教科はどのグループの授業も同じ先生が受け持つことにして、時間割を組むことにした。だから、ある日の1時限は、Aは国語、Bは数学、Cは社会、Dは英語といった時間割になる。そのような習熟度別の授業が、午前中2~3時間まとめて行われ、それ以降は美術や音楽といったクラス単位の授業になる。
 グループの人数は一定ではない。ABCDの順に少なくなる逆三角形型だ。Aは40人を超えることもあるが、CDは先生の目がよく届くように、人数を少なくするようにしている。もちろん、固定もしない。夏休み後、2学期文化祭終了後、3学期初めと、年に3回のグループ替えを行う。そのためにも、各グループの進度は同じにしなければならない。「単元内自由進度学習です。CDグループは十分に時間をかけて基礎基本を学習します。ABグループは基礎的なところは早めにすませ、発展的な問題に多くの時間を割きます」
●目標の高校を明確にした指導で進学実績も向上
 習熟度学習を始めてから、進学実績も上がった。習熟度別学習を始める前の98年度は約71%だった県立高校および国立高専への進学率が、実施した99年度~2000年度には80%近くになり、さらに2001年度には80%を超えるようになった。その実績を見て、保護者は確実に信頼を寄せてくれるようになった。
 進学実績向上の裏には、もう一つ「仕掛け」がある。グループごとに目標の高校を明確にしているのである。だから、上位校の入学を希望している生徒には、テストの点数が多少足りなくても、ABグループで学習させる。同じ目標を持った仲間と学習することで、より目標に近くなることをねらう。来春の入試から調査書の方式も変わり、学区域が広がるなど多様化も進むが、「これまで通りの指導をすれば大丈夫」と、心配はしていない。
 しかし一方で、「まだまだ改善の余地があります」と言う久慈先生。「年間学習計画を習熟度別につくったり、逆三角形型のグループ構成を菱形などに検討し直したり、グループ独自の補助教材を考えるなど、きりがありません」。実践すればするほど、また課題も生まれるのかもしれない。
■生徒の成績表。一人ひとり細かくグラフ化され、校長室に保存してある


■習熟度別学習中の教室。一人の先生が4タイプの授業をするので、4通りの指導案をつくることもある



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