新しい評価と高校入試 取り組み事例3
千葉県千葉市立緑町中学校


●取り組みの要点
  1. 緑町中学校では、2001年度から、1日5時間の「55分授業」を導入している。通常の50分授業を5分延ばすことで、学習形態や学習方法の幅が広がった。また、5時間授業のために、放課後、生徒は部活や生徒会活動等にゆったりと時間を使えるようになり、好評である。先生方にとっては会議や研修の時間の確保にもつながり、ゆとりが生まれている。
  2. 55分授業を単なる50分授業の延長にしないために、「タイムプロット」(単位時間の授業構想例)を教科ごとに何種類かつくり、学習の領域、学習の段階によって使い分けるようにした。
  3. このように教育課程を大きく変更した理由は、ゆとりのなかで基礎・基本を確実に定着させることをねらったためである。同校では、「基礎・基本」を「相対性」「多面性」「弾力性」という3つの側面からとらえ、少人数指導やTTを行っている。


●基本情報
高塚 隆校長、生徒数302人、11学級(教育相談教室3含)
●学校住所
〒263-0023 千葉県千葉市稲毛区緑町2-3-1
電話 043-241-4131 FAX 043-244-5943
●学校の環境
千葉市のほぼ中央部、住宅街と商業地が入り混じった校区にあるが、周辺には千葉大学をはじめ、大学や高校などの教育機関も多く、落ち着いた環境である。都心への交通が至便なため、東京都内に通勤する保護者も多く、都内の高校に進学していく生徒も少なくない。保護者には同校の卒業生も多く、学校への関心や期待は強い。



■55分授業で基礎・基本を定着させる時間をつくり出し、学校全体にゆとりも生まれた■

●55分授業で、授業の組み立てが豊かになった
 モジュール学習の登場などで、授業の1単位時間を柔軟に設定する動きが広がっているが、緑町中学校では2001年度から、1単位時間を55分とし、1日5時間を基本に教育課程を組んでいる。たしかに、授業をしていると、「あと5分あればなあ」と思うことはある。
「55分授業にしたことで、授業の組み立てが違ってきました。例えば数学では、個別指導の時間を確保できるようになり、社会科では調べる時間を増やせました。また、技術・家庭科や保健体育など、準備や後かたづけの必要な教科は、休み時間や前後の時間にはみ出すことなく時間内に終えることができます」(高塚校長)
 そしてなによりも、5時間授業にしたことで放課後にゆとりが生まれたことが大きいという。午後3時10分には5時間目が終わり、学活を終えても3時30分、その後は部活動、生徒会活動に十分時間がとれる。おかげで生徒会活動が活発になった。先生方は会議や打ち合わせ時間を確保でき、会議や行事のために短縮授業にすることがほとんどなくなった。
 しかし、学校五日制が完全実施された今年度から、ほとんどの学校で6時間授業の日を増やしている。それなのに、5時間授業で必要な授業時数が確保できるのだろうか。
「授業時間は分に換算して、規定の時数に達するようにしています。例えば、50分で6時間授業を3日、5時間授業を2日として、1週間に28時間実施したとすると、50×28=1400(分)になります。一方、55分で5時間×5日=25時間実施すると、55×25=1375(分)で、55分授業のほうが25分少なくなります。その分は、『総合的な学習の時間』をまとめてとる(55分×30コマ=1650分)ことで解消しています」(高地教頭)
 もう一つ心配なのは、生徒の集中力だ。50分でも持続できない生徒が多いと聞く。
「55分授業をするには、学校環境が落ち着いているということが前提だと思います。実施当初の5月と10月、2・3年生を対象にアンケートをとりましたが、55分・1日5時間という授業のしかたを『よい』と答えた生徒が5月45人、10月には66人、12%増です。『よい』と『どちらかといえばよい』を合わせると全体の85%に達します。よさが実感として理解されてきたんだと思います」(高塚校長)
●55分授業用のタイムプロットを教科ごとに作成
 長年50分授業になじんでいる先生方には戸惑いはなかったのだろうか。多くの指導例も、50分1単位を想定してつくられている。単にそれを5分延ばしただけでは、内容が薄まるし、学年末までに必要な内容を学習できなくなる心配もある。
「年間指導計画は55分を1単位とした独自のものをつくりましたが、さらには55分にした場合、どのような授業展開ができるのか、各教科で考えました。すると、教科のなかでも題材・領域、さらに学習の段階によっても違うことがわかってきました。それぞれ検討したうえで、いくつかのパターンに集約できるのではないかと考え、タイムプロット(授業構想例・図参照)をつくりました。それをもとに、先生が工夫しているのです」
 つまり、同じ数学でも計算領域のような場合、個別練習に後半20分を割くが、文章題のような応用問題などに取り組む場合には、課題解決のためのグループ学習や個別指導に後半の時間を確保しているのである。
●基礎・基本の3つの側面を考えながらの指導
 タイムプロットを見ていて気がつくのは、「復習」「個別練習」「課題解決」のような時間を十分に確保しようという姿勢だ。基礎・基本を定着させたいという意図からである。
 同校では、この基礎・基本について、3つの側面を考えながら、指導している。
 1.まずは、「基礎・基本の相対性」という考え方である。新たな内容を学習するときは、既習事項が「基礎・基本」であり、その新たな内容は次の学習の「基礎・基本」となる。
 2.次に「基礎・基本の多面性」という考え方。これまでの基礎・基本の議論では、知識・理解・技能などの狭い領域に限定されていたが、これに、「関心・意欲・態度」を含めた「基礎・基本」を明らかにして、定着を図らねばならないと考えている。
 3.3つ目は「基礎・基本の弾力性」。基礎・基本の内容には、生徒によって個人差があっていいという考え方である。従って、個に応じた指導が必要になってくる。
 具体的には、数学と英語で少人数授業とTTが並行して行われている。千葉大学の学生も毎日交代でボランティアに来てくれ、TTに加わっているのだ。遅れがちな生徒に目を配ってくれるし、兄・姉のような存在が学校に常にいることで、学校に活気が出た。
 個に応じた指導は、あらゆる場面を使って行われている。夏休みに「学習相談」を実施したら、6日間で延べ300人が参加した。生徒のアンケートを通して「勉強のしかたがわからない」という生徒が多いこともわかったので、「勉強のしかたマニュアル」を作成し、特活などで指導している。そのほか、定期テストの前には、放課後に1週間ほどの学習相談週間を設けるなど、さまざまな手だてを講じる。生徒全体の底上げをしたいという先生方の思いには、保護者から期待と支持が集まっている。
■55分授業の授業構想例。このようなパターンが教科ごとに考えられている。


■緑町中学校の校舎内外には緑が多いので、落葉も大変な量になる。毎朝7時30分から朝読書が始まる8時まで、生徒たちがクラス単位で順番に落ち葉掃きをしている。


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