新しい評価と高校入試 取り組み事例5
埼玉県草加市立松江中学校


●取り組みの要点
  1. 松江中学校では学力向上対策の一つとして、水曜日の午後、「学習相談室」を開いている。「勉強の仕方がわからない」「授業についていけない」という生徒たちの悩みを解決する場である。先生たちがローテーションを組んで指導に当たるほか、保護者や大学院生などがボランティアで指導に加わっている。
  2. 水曜日の午後の時間を確保するために、日課表上、独自の工夫をしている。そのため、30分授業、50分授業などが混在しているが、授業の始まる時刻をすべて同じにし、生徒に混乱が起きないようにしている。
  3. 学力向上支援システムのもう一つの場として、早朝の「校長塾」も定期的に開かれている。自学自習が基本で、「学習相談室」とは違う雰囲気であるため、参加する生徒も異なる。鏑木校長は、生徒が自分のタイプに合わせて選べるように、学校にさまざまなスタイルの学習の場を用意することが大切だと考えている。


●基本情報
鏑木良夫校長、生徒数412人、12学級
●学校住所
〒340-0013 埼玉県草加市松江3-14-33
電話 048-936-9903 FAX 048-936-9904
●学校の環境
草加市は埼玉県南東部の中心都市。古くは芭蕉「奥の細道」の第一宿でも知られ、「草加せんべい」でも有名。現在は東京のベッドタウンとして、大規模団地を擁する都市になっている。松江中学校は、東武鉄道草加駅から徒歩で20分ほどの住宅地と商工業地が混在した地域にある。すべての教室に冷房が完備していて、夏の暑い盛りでも快適な学習環境が保障されている。保護者や地域の方々は協力的かつ教育熱心で、「夢授業」の講師を務めたり、学習ボランティアとして学校の活動に進んで参加してくれたりしている。



■学習支援の場として、「学習相談室 」を定期的に開室。寺子屋のような雰囲気が伝わって、参加者が確実に増えている■

●先生、保護者などが指導。いろいろな人に教わるのは刺激的
 不況のなかでも、都市圏では私立中学志向は衰えをみせない。そんななか、「私立に負けない学校づくり」を達成目標に掲げているのは、草加市立松江中学校の鏑木良夫校長だ。「放っておいても生徒が集まるという甘えは、公立中学校でも通用しなくなりつつあります。わざわざお金をかけて私立に行かなくてもすむような、特色ある学校をつくりたい。そのためには、先生方にも緊張感を持ってもらいたいのです」
 目標を達成するための一つの方策として、学力向上支援システム「学習相談室」を2001年10月開設した。水曜日を午前授業にし、部活動が始まるまでの午後2時から3時30分までの時間をそれに充てる。参加は生徒の自由。先生方がローテーションを組んで指導に当たるほか、保護者や大学院生などのボランティア、退職した先生も手伝いにきてくれる。具体的な「相談」や「質問」を持って訪れる生徒もいるが、「一回参加してみたら、いい雰囲気なので」という気軽な理由で訪れる生徒もいる。「いろいろな生徒が参加していますが、ねらいは中間層の底上げ」(鏑木校長)だという。
 10月のある日、見学させてもらったが、中間テストが終わったばかりだというのに、22人の参加者があった。「相談室」というより、寺子屋という雰囲気だ。先生と生徒が一対一で教科書に向き合っているかと思えば、ボランティアのお母さんが、生徒数人のグループと一緒になって数学の問題を解いていたりする。
「家ではだらだらしてしまいますが、ここは友だちが一緒だから気合いが入るんです」と話してくれたのは、中間テストの間違いを直していた女子生徒。
「教えるなんていうことはできないのですが、子どもたちと一緒に考えて答えを導き出し、それが正しかったときの喜びはなにものにも変えられません。しばらく勉強から遠ざかっていたので、勉強をし直してみようと意欲がわいてきました」というのは、ボランティアのお母さん。
「保護者の方には、一緒に悩むだけでいいんですとお願いしました。すると、8人が登録してくれて、自分のスケジュールに合わせて、交代で来てくださっています。いろいろな人に教わるというのは、生徒にとって刺激的です」と鏑木校長。参加者は昨年度は2.4%だったが、今年度は9月までの集計で2倍近い約4%。確実に増えている。
●「学習相談室」の時間を確保するため、日課表上で工夫
 認知心理学を自身の研究テーマとしている鏑木校長は、4年前の着任時から学習相談室の構想を持っていた。だが、実現にはかなり時間がかかった。いちばんの障害は時間の確保だった。学校週5日制のなかで、午前授業のみの日をつくるというのは、簡単なことではなかった。開設までに9回の職員会議を開いたそうだ。時間数の確保のために、年に何度も時間割の変更をするようなことはしたくない。生徒の生活リズムの安定や教師の校務分掌などを考えて、年間時間割を固定することにこだわった。そこで、各教科の年間実施時間を分に換算し、1単位時間を50分にこだわらずに設定することで確保した。一日のなかで、30分、50分、60分といった授業が混在することになったが、授業の始まりの時刻だけはそろえることにした。そのほか、朝の職員打ち合わせを週2回にし、打ち合わせのない日は掃除の時間にし、単独の掃除時間を取らなくてすむようにするなどして、授業のない、土曜日のような半日を確保することができた。
「放課後の自由を取り戻したかったんです。学習相談室に行く生徒、部活が始まるまで友だちとおしゃべりする生徒、家に帰る生徒、いろいろです。心なしか水曜日は学校の雰囲気が違うような気がします」(鏑木校長)
●学校には、多様な学びの場が必要
 松江中の校長室の扉には、「校長塾を始めます」というお知らせと開塾予定日が貼り出されている。校長塾は原則として、毎週木曜日早朝7時から8時の1時間、校長室で行われる。夜型にシフトしつつある子どもたちの生活をなんとか朝型に戻したいというねらいもある。主として3年生が対象だが、毎回十数人が参加する。夏休みも10回ほど行われた。
 ここの雰囲気は学習相談室とは違う。質問があるときには校長先生が答えるが、基本は自学自習。鉛筆の走る音だけが聞こえるような静寂のなかで行われる。「しーんとした1時間が貴重です」といって参加してくる生徒もいるという。
「校長塾にくる生徒と学習相談室にくる生徒は違うんですよ。自分のスタイルに合った場を生徒が選べるように、学校に多様な場を用意しておけば、生徒に学びの拒否反応は起きてこないと思います」(鏑木校長)
■生徒、先生、ボランティアが入り交じって、寺子屋のような雰囲気の学習相談室。
 ふだんの授業ではきけないことも、この雰囲気ならためらいなく質問できる。


■生徒と一緒になって問題を考えるボランティアのお母さんたち。
 「子どもたちの気持ちがわかりました」「学習の流れがわかると、わが子との会話も弾む」と、二次的な効果も。


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