新しい評価と高校入試 取り組み事例6
愛知県小牧市立小牧中学校


●取り組みの要点
  1. 自ら学び、自分で自分を評価する力をつけるために、全教科で「学習のめあて」を提示し、「めあて」を意識した学習を展開している。さらにテストも、その「めあて」と連動する問題を作成している。
  2. 授業改善の一歩として、折りにふれて「書かせること」を実践している。数学の問題でも、自分の言葉で、例をあげて説明できなければ理解したことにならないということを生徒に徹底しており、テストでも書かせる問題に力点を置いている。
  3. 生徒の学びを支えるためには日常の授業研究が大事だと考えている。「いつでもどこでも現職教育」と考え、職員会の場が板書研究の場に変わったり、校内LANに授業場面や取り組みを動画として流して学び合ったりしている。


●基本情報
野々部智校長、生徒数691人、21学級(特殊学級2含む)
●学校住所
〒485-0046 愛知県小牧市堀の内4-30
電話 0568-77-6321 FAX 0568-75-8295
http://www.komaki-aic.ed.jp/komaki-j/asp/maki_right.asp(マキネット)
●学校の環境
小牧市は名古屋空港を抱える名古屋市北郊の都市である。市の中央には織田信長が城を築き、「小牧・長久手の戦い」で徳川家康の陣地となった小牧山がどっしりと構えている。小牧中学校はその小牧山史跡の一角にあったが、1998年4月、南麓にあたる現在地に新校舎を竣工して移転した。斬新な新校舎には最新設備が備えられ、特にコンピュータは、専用室のほか各教室に1台ずつ置かれるなどして校内に80台近く配備。教育活動、職員間のコミュニケーションに積極的に活用しているほか、ホームページ(マキネット)を通した保護者への発信も盛んに行っている。また、学校支援ボランティアの活用等で地域との連携も進み、いちはやく「開かれた学校」を実現している。



■めあてを意識した授業。書くことを大事にする授業。地道な授業改善が自ら学び子どもを育てる。■

 
●授業の随所に「考える」「説明する」しかけをつくる

小牧中学校は、学校支援ボランティアの活用などを通して積み上げてきた総合的学習を、「共生」をテーマに今年度もさらに充実させることで大きな特色を出しているが、一般教科でも、毎日の授業を「生徒出力型」に変えていくことで学力向上をめざしている。つまり、日々の授業で、生徒が考え、表現する場面を多くつくり出そうとしているのである。
 見学したのは1年生の数学の授業だった。新しい単元「方程式」の1時間目で、教頭の玉置崇先生と講師の筒井研一先生のTTが行われていた。生徒に「学習のめあて」カードを出させ、「今日めざすのは、今まで学習したことを生かして方程式を解くことだよ」「『方程式とは何か』を説明できたら、授業としては成功だ」と、玉置先生が授業の枠組みと到達目標を確認。そして、「考え方がわかるように書いてね」とひと言。問題は、「1枚2gの便せんが重さ5gの封筒に入って全部で17gだった。便せんは何枚か」というものだが、いきなり式を書き始めた生徒もいれば、「式を書けばいいの?」と疑問を口にする生徒もいる。しばらくして3人の生徒が黒板に答えを書き始めたが、すべて文章で説明した生徒、「17-5=12、12÷2=6」とした生徒、□を使った式、2×□+5=17で解き始めた生徒、三人三様だった。
「どうしてこの式が出てきたの?」黒板に書かれた答えをめぐって、先生と生徒との対話が始まった。玉置先生は、生徒がどんなにつたない言い方をしても、決して言葉を付け加えたり言い替えたりしない。1人の説明が不十分とみたら、生徒同士で補足させる。一見すると、もどかしい授業展開のような感じがするのだが、「これが大事なのです。いつも先生が補足するということが続くと、生徒はいつでもフォローしてもらえると思うし、『先生にさえわかってもらえればよい』という気持ちになる。それでは、子どもはきちんと考えを表現できるようにならない」というのは、授業を一緒に見学した教育コンサルタントの大西貞憲さん。「考え方がわかるように書いてね」のひと言で止めたも、プリントの解答スペースを細長くとったのも、ちゃんと計算したうえでの仕掛けのようだ。
 玉置先生は、このような「考える」「考えたことを説明する」時間を授業のなかで意識的に多く取り入れている。だから、先生が「わかるということは?」と生徒に投げかけると「例を挙げて説明できること」という答えが生徒から即座に返ってくるのだ。

●テスト問題も記述式が中心。とにかく自分の言葉で書かせる機会をつくる

方程式の授業は導入段階だったが、すでに単元テストができていた(図版参照)。同校では、全教科で毎時間の「学習のめあて」をつくり、それを意識した授業が展開されているが、「めあて」ができているため、単元の導入時に単元テストの問題をつくっておくのは、そんなに難しいことではない。これなら、授業の見通しが立つし、評価にも困らない。
 単元1時間目の授業に対応した問題には、「方程式」「方程式の解」「方程式を解く」といった用語を文章で説明するものがあった。「学習のめあて」のどれに該当する問題かも明記してある。単に方程式の解き方を知っただけでは解答できない問題ばかりだ。ほかにも、「方程式を利用して解く良さはどんなところですか」「身の回りで、方程式の考え方を利用している場面を具体的に書きなさい」などの設問もある。塾で教わって方程式がわかった気になっている生徒には、お手上げの問題である。
「『テスト直前対策』のようなごまかし勉強で解ける問題ではなく、授業で理解したことを再現できる問題にしたいのです。こうしたことは、一教科で頑張ってもだめなんです。全教科で意識していくと、本当に力がつくと思いますね」(玉置教頭)

●生徒の学びを支える教師の研修はいつでもどこでも

小牧中には、「いつでもどこでも現職研究」という考え方がある。例えばある日の職員会で、「○○先生、板書をしてください」と指名して、板書の研究が始まったりする。また、授業場面や面白い取り組みをビデオ撮影し、校内LANに動画で流して、いつでも学び合えるようにしている。玉置先生は自ら率先して年に3、4回の研究授業をするし、普段の授業も公開している。時間が許す限りほかの先生の授業を見にいき、見学後は必ず担当者と話をしたり、自らのホームページで気づいたことを発信したりもしている。
「卒業文集に書かれる思い出はたいてい部活や修学旅行ですが、『あのときのあの授業がよかった』と書かれると、教師冥利につきます。そんな授業ができる教師でいたいです」
と話す玉置先生は、根っからの授業好き。「そうした姿勢がほかの先生方にも伝わって、学校の雰囲気を研究的にしている」と言うのは、先の教育コンサルタント大西さん。
 そのほか、生徒の学びを支えるために、先生たちはさまざまな仕掛けを労を惜しまず行っている。その一つが「まなび」新聞の月2回発行だ。インターネット上にも流している。家庭学習のコツが書かれていたり、地域の史跡の紹介、伝承遊びの紹介であったりといろいろであるが、土日を有効に活用して、学び続けてほしいとの先生方の思いが込められている。「活きのいい」学校はどこでもそうであるように、実に多彩な実践が行われており、それが相乗効果となって、日常の授業にも活気を与えているといえそうだ。

■玉置先生と筒井先生による数学の授業。「生徒のつぶやきを見逃すまい」そんな努力をいつもしているという。
 授業の流れによっては、2グループに分けての少人数指導になる。




■数学単元テストの例(1年方程式)。言葉で説明する問題がほとんどである。
 問題の頭についている【13S2】というのは、生徒に手渡している「学習のめあて」と符号している。
 Sは、「数学的な考え方」を評価する問題の意味。ほかに、T「知識・理解」、H「数学的表現・処理」に分けている。


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