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新しい評価と高校入試 取り組み事例7
福岡県福岡市立香椎第三中学校
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●取り組みの要点 |
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- 香椎第三中学校の進路指導は、職場取材→職場体験→高校取材→高校授業体験という3年間にわたる一連のストーリーのなかで行われる。なかでも特徴的なのは、校区内の九州高校の授業を3年生全員が体験することである。高校に入学はしたものの、続けられなくて中退する生徒が毎年後を絶たないということから、高校とはどんなところかを知って入学してほしいという願いから体験入学を始めた。
- 体験する授業は、実際に高校で行われているレベルのもの。14ほどの講座から希望する講座を受講した。受講後は、他校の体験入学申し込みがぐっと増え、進学へのモチベーションを高めたし、体験した卒業生の中退者は減っている。
- 同校のある福岡県第五学区では、「中高連絡会」が毎年開かれ、中学校と高校の情報交換をするほか、日常の進路指導にも協力しあうなど連携が進んでいる。
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●基本情報 |
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加藤秋生校長、生徒数728人、20学級 学校要覧 【/】 |
●学校住所 |
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〒813-0012 福岡県福岡市東区香椎駅東3-33-1
電話 092-662-7668 FAX 092-662-8456 |
●学校の環境 |
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学校がある東区は、九州最大の都市・福岡市のベッドタウンであり、大学や短大、高校が集まる文教地区でもある。1800年ほど前に創られた香椎宮があり、町の歴史そのものは古いが、香椎第三中学校は、2002年に創立20周年を迎えた比較的新しい学校である。保護者の多くは福岡市の中心部や北九州市に勤務するが、農業を営む家庭もあり、新旧が混在している校区である。新しい住宅地を造成中で、今後生徒数は増えていく見通し。2002年度の校内LAN研究モデル校に指定され、さまざまな場面での活用法を探っている。 |
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■高校の実際の授業を体験することで、高校選択や進学へのモチベーションを高める■
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●高校生と同じ授業を受けて、高校の厳しさを知る
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今はほとんどの生徒が高校に進学しているが、卒業生全員を高校に入学させても、先生方は安心はしていられない。中退者が出てくるからだ。香椎第三中学校も例外ではなく、先生方は毎年、1学年から5、6人は出てくる中退者に頭を悩ましていた。中退者は、必ずしも希望外の高校に入った生徒に限らなかった。第1志望に進学した生徒もいたし、推薦入学の生徒もいた。中退理由を調べていくうちに、「中学生がイメージしている高校生活と現実とのギャップが大きい」ということに気がついた。そこで、同校では、「実際の高校生活、例えばどんな授業をしているのかを入学前に知れば、高校を選ぶ目も変わってくるし、中退者も減るのではないか」と授業体験を始めた。
これまでも高校の情報は収集して公開していたし、夏休みに各高校が実施する「体験入学」への参加も積極的に勧めていた。卒業生が進学した高校を生徒の代表が訪問して取材し、調べたことを全員の前で発表させたこともあった。しかし、何かが足りなかった。
そこで、一歩進めて、実際に高校の授業を受けさせてもらうことを考えた。しかし、1学年300人近い生徒を抱えている同校にとって、受け入れ先が問題だった。校区内にある九州産業大学附属九州高校は、同校から毎年100人くらいの受験者があり、男女共学で、母体の大学への進学の道も開けていることから、生徒に人気のある高校である。思い切って頼んでみたら、私立高校ということもあってか、柔軟に受け入れてくれることになった。
2回目に当たる今年度の授業内容は、下表の通りである。3年生ということもあり、「高校の授業をそのまま受けさせてください」とお願いした結果、企画された講座である。
「後ろで見学していましたが、かなり高度な内容にもかかわらず、生徒たちは神妙に聴いていました。普段、中学校では見られない姿でした。よい経験をしたと思います」と加藤秋生校長。
「ほとんどの生徒が『中学校とは違う』という感想を持ったようです。勉強をしなくてはという意識も同時に芽生えたようです」(進路指導主任・重富先生)
九州高校での体験授業開講コースと内容
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教 科 |
コース |
内容 |
受講人数 |
1 |
美術 |
写真撮影 |
簡単な実技体験 |
20 |
2 |
美術 |
デッサン |
簡単な実技体験 |
20 |
3 |
美術 |
テキスタイル |
染めの実技体験 |
19 |
4 |
美術 |
コンピュータ |
グラフィックデザインの基礎実技体験 |
29 |
5 |
美術 |
陶芸 |
簡単な実技体験 |
20 |
6 |
美術 |
絵画 |
水彩実技体験 |
7 |
7 |
国語 |
古典 |
竹取物語(現代語と古語の相違点) |
30 |
8 |
国語 |
特進古典 |
竹取物語(古典文法・用語中心) |
6 |
9 |
社会 |
世界史 |
古代ギリシャ(アテネとスパルタ) |
23 |
10 |
数学 |
数学 |
直角三角形とタンジェント(直角三角形を利用して、建物や木の高さを測る) |
8 |
11 |
数学 |
特進数学 |
二次関数(グラフを考える) |
4 |
12 |
理科 |
生物 |
酵素のはたらき(酵素は無敵か?) |
31 |
13 |
英語 |
オーラルコミュニケーション |
At the airport(空港での会話表現。コンピュータを利用した未来型授業) |
30 |
14 |
英語 |
特進英語 |
Spaceship Earth(読解) |
11 |
★九州高校には「デザイン科」があるので、6コース開講した。
★「特進」とは、大学受験をめざしたコースのこと。
★8.特進古典と11.特進数学は人数の関係で合同クラスにし、それぞれ半分ずつ授業した。
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●近隣高校との中高連携も進み、直接情報交換するルートが確保されている
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高校で授業を受けたのは1時間だが、高校の雰囲気を味わうために、「学食」で食券を使って昼食をとるところから体験は始まっている。さらに、事前指導、事後指導にも時間をかけた。体験前の「進路集会」では、卒業生を招いて、高校とはどんなところか、受験の心得などを話してもらった。
「九州高校で授業を受けた一週間後には、夏休みに行われる各高校の『体験入学』への申し込みが束になって私のところに届きました。授業体験がどんなに刺激的だったかがわかりました。結局、夏休み中に延べ660人が体験入学をしてきたようです。生徒1人あたり2、3校になります」(重富先生)
なお、同校では、九州高校以外の近隣の高校とのつながりも強い。香椎三中が属する福岡県第五学区内の高校と中学校の間では毎年「中高連絡会」が持たれ、情報交換会が行われている。高校は自校をアピールする機会になるし、中学校は、高校の動きを知るだけでなく、中学側からの要望を伝える場にもなる。さらに、受験準備が本格化する9月と、公立高校の入試を1か月後に控えた2月には、高校の先生が直接同校に訪問して高校の紹介をしたり、受験や入学までの過ごし方についてアドバイスしてくれる。
福岡県にかぎらず、今後高校入試はますます多様化しそうである。変化の著しいとき、中学校と高校が直接話し合えるルートが確保されているのは、とても意義があると思える。
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●進路指導のストーリーを確立
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高校の授業を体験した3年生は、それまでに1年生で職場訪問をし、2年生で職場で働く体験をしている。「高校授業体験」が定例化することで、職場取材→職場体験→高校取材→高校授業体験という一連のストーリーで進路指導が行えるめどが立った。
「進路指導を始めた7年前は、まだ何も道筋ができていなかたので、とにかくできるところからということで、グループごとの職場訪問から始めました。取材を続けるなかで職場体験をさせてくれるところが出てきて、2001年から職場体験を実現しました。大規模校で体験をさせるには、少しずつステップを踏みながら進めるしかありません」(重富先生)
2002年春、高校の授業を体験した初めての卒業生が出た。その後を聞いてみると、高校中退者数は例年よりもかなり減ったそうだ。授業体験との関係は必ずしも明らかではないが、先生方は、一連の進路指導が充実してくれば、もっと減らせるという手応えを感じている。
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資料1 3年生9月進路集会について
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資料2 九州高校授業体験 |
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■九州高校での授業体験。高校になるとこんな高度なことをするのかと、驚きの声が。「美術科」の授業では、どのコースにも多くの希望者が集まった。
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