新しい評価と高校入試 取り組み事例8
三重県伊勢市立豊浜中学校


●取り組みの要点
  1. 学力向上対策の一つとして、今年度(2003年度)から、毎朝15分間、国数社理英、主要5教科のドリル学習を始めた。基本的に各学級の担任が指導するが、実施教科の先生も巡回し、生徒の質問に応えるようにしている。ドリルは市販のものを用いているが、今後は自作のものも加えていく予定である。
  2. 少人数指導は2000年度から3年生を対象に実施していたが、今年度から2年生にも広げ、国数英で実施。同校の少人数指導は、均質な20人程の小集団による学習であることが特徴。近隣が親密な間柄という地域性を考慮してのこと。一人ひとりに目が届くので、生徒・先生ともに好評である。


●基本情報
上田曉生校長、生徒数186人、8学級
●学校住所
〒515-0505 伊勢市西豊浜2736番地
電話 0596-37-2137  FAX 0596-37-5772
●学校の環境
三重県の南部に位置し、伊勢神宮で知られる気候温暖な観光の町・伊勢市。豊浜中学校は市の北部、伊勢湾に面した地域にあり、校区は漁業を営む地域と農業地帯とで成り立っている。保護者の多くが兼業で農業や漁業を営んでいるが、地域・保護者の学校への信頼は篤く、地域ぐるみの「教育振興会」をつくり、行事や部活動などさまざまな場面で学校をバックアップしている。
今年度の同校は、「アクション豊浜」のスローガンを掲げ、インターンシップ事業をはじめとした体験活動を多く取り入れ、特色ある学校づくりをめざしている。
生徒の活動では、部活動、とりわけ広い運動場をフルに活用したスポーツ部の活動が盛んで、陸上部は毎年全国大会に出場するなどの実績を残している。



■15分の朝学習で授業時間の削減を補い、学力向上を図る■

●朝学習と普段の授業とのつながりを模索中
 豊浜中学校のある地域は、かつては、温暖な気候を利用した農業や漁業が盛んで、家業を継ぐ子どもたちも多かったことから、保護者も比較的のんびりとしており、進路意識や学力に対する関心もそれほど高くなかった。しかし、近年、漁獲高も農産物の生産高も減り、多くの家庭は兼業になったため、保護者は、「わが子の将来を考えて学力をつけてほしい」と考えるようになった。
 先生方は保護者のそうした意識の変化を強く感じるようになっていたが、授業時間が削減された新教育課程では、なにか工夫をしないかぎり、学力向上は望めない。これまでも高校受験を控えた3年生に対しては、「朝学習」という場を設けていたが、あくまでも自学自習の場であった。しかし今年度からは、それを学力向上対策の一つとして、全学で体制を整えて取り組むことになった。
 毎朝8時25分からの15分間が、同校の朝学習の時間である。実施教科は、国語・数学・社会・理科・英語の5教科であるが、何曜日にどの教科を実施するかは、学年単位で決める。基礎的・基本的な内容を市販のドリルを使って学習するが、10分間で問題を解き、5分間で答え合わせをするのを原則にしている。
 ほとんど私語がなく、ただ鉛筆の走る音だけが聞こえる時間。どんどん解いていく生徒、ときどき鉛筆が止まる生徒、いろいろではあるが、早朝の静まりかえった時間を積み重ねるだけでも貴重のように思える。
 この時間は、チーム・ティーチングが基本である。まず、各学級の担任が自分のクラスの生徒をみることになっているが、実施教科の担当の先生は各教室を巡回して、生徒の質問に答えたり、答え合わせの折りには、重要ポイントの解説をしたりしている。
 短時間だが、どの教科も毎週1回は実施するから、とにかくどんどんドリルが進んでいく。教科によっては、進みすぎて未習の範囲に入ってしまうことが、目下の悩みだ。「今年度は余裕がありませんでしたが、来年度からは市販のドリルに手づくり問題を加えながら進め、普段の授業の進度とぴったり合わせるようにするのが課題です」と上田校長は話す。
 さらに、朝学習でどれくらい力がついたかを検証し、ドリル学習を継続するなかで得られた生徒の情報をふだんの授業にどう生かすかも検討している。
●個別指導が可能な少人数授業
 同校のもう一つの学力対策は、少人数授業である。2年生と3年生の国語・数学・英語で実施している。ただし、習熟度別のグループ分けはしない。1学年の2クラスを均質な3つのグループに分けて行う。普通の授業でも30人程度だから、3つに分けると1グループ20人ほどになる。この人数なら、達成度に合わせた個別指導が十分に可能だと先生たちは考えている。
 習熟度別グループ編成をしないのは、近隣が何世代にも渡って親密な間柄である地域性を配慮してのことだ。長期間習熟度別編成が続けば、差別意識が生まれないとも限らない。団塊の世代の上田校長は、自ら中学・高校時代に能力別編成の授業を受け、違和感を覚えた経験からも、一つ間違うと子どもの心を傷つける習熟度別のグループ編成にはしないほうがいいと考えた。
 均質に分けた3つのグループは1年間固定する。「そのほうがグループメンバーの信頼関係も生まれ、失敗を恐れなくなります」と上田校長。子どもたちが不安感を持たないよう、同学年の同教科では3グループとも同じ先生が受け持てるように時間割を組む。だから、Aグループが国語の授業をしているとはき、Bグループは数学、Cグループは英語というようになる。小規模校での少人数授業には、時間割編成上の工夫が要る。
 生徒へのアンケートによると、この少人数指導への評価は高い。一人ひとりに目が届くので先生方からもおおむね好評ではあるが、「討論したりするときなど、意見のバラエティーが少ないという欠点もある。なんでも少人数学習ということでなく、内容に応じて使い分けたい」という声も今後に生かしたいと上田校長は考えている。

1.早朝の張りつめた空気のなかでの朝学習。ただ鉛筆の走る音だけが聞こえる。



2.生徒をファーストネームで呼ぶアットホームな雰囲気の教室。先生は一人ひとりに目がよく届く。



3.進路情報コーナー。卒業生のほとんどが市内か周辺の高校に進学する。先生方は、生徒の進路意識を高めるのに懸命だ。




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