新しい評価と高校入試 取り組み事例11
熊本県八代郡竜北町立竜北中学校


●取り組みの要点
  1. 竜北中学校では、「自ら学ぶ意欲をもち、主体的に学習する生徒の育成」をテーマに、「基礎・基本」にこだわった研究、実践を積み重ねてきた。現在はその成果を引き継ぎながら、新教育課程に沿って修正したり新しい課題に挑戦したりしている。
  2. 同校では、「基礎・基本」を定着させるために、全教科の基礎・基本を洗い出して一覧表を作成。それを、授業中だけでなく学習のあらゆる場面で活用している。また、指導と評価の一体化をめざして、定期テストだけでなく、授業中にさまざまなタイプの小テストをするなどして、学習の定着状況を細かく評価している。
  3. 生徒に授業改善アンケートを実施し、授業改革の手かがりとしている。そうした努力が実って、生徒の学力向上は数値のうえにも表れてきた。


●基本情報
沖田典雄校長、生徒数335人、10学級
●学校住所
〒869-4814 熊本県八代郡竜北町大字島地665
電話0965-52-1504  FAX 0965-52-2706
●ホームページ
http://www.higo.ed.jp/jhs/ryuhokuj/
●学校の環境
竜北町は熊本県のほぼ中央にある人口約8千9百人の町。熊本市から南に約30㎞、西は不知火海に面する干拓地を含んだ農業地帯にある。かつては畳表になるい草の栽培が盛んだったが、安価な輸入品に押されて、現在はイチゴや梨、ネーブルなどの果物の栽培が農業の柱となっている。
竜北中学校は町で唯一の中学校のため、校区も全町内25地区から成り立ち、地区懇談会は4日間をかけて行うほどである。保護者のほとんどが兼業で農業を営みながら、八代市や近隣に勤務している。保護者の学校への信頼は厚く、地域は協力的である。
 部活動は、とりわけ体育部の活動が盛んで、柔道では九州地区の大会で団体優勝した実績も持つ。学校図書館も充実しており、2002年2月、全九州の学校図書館コンクールで文部科学大臣賞を受賞した。



■各教科の基礎・基本を一覧表にして明確にし、授業などあらゆる場面で徹底して指導。確実に学力が向上してきた■

●「コンセプトマップ」が単元学習の指針
 竜北中学校は、2000~01年度、熊本県教育委員会から「学力充実推進校」の指定および、八代郡町村教育委員会連絡協議会からは研究委嘱を受けて、「基礎・基本」にこだわった研究、実践を積み重ねてきた。現在はその成果を引き継ぎながら、新教育課程に合わせて修正したり発展させたりしている。
 研究主任である三輪貴史先生の3年生社会科の授業を見学させてもらったが、研究の過程で生み出された手法が随所に使われていた。
 まず、始業のチャイムと同時に「社会科係」の生徒が教壇に立って、クイズ形式で問題を出し始めた。この日は前週の中間テストで誤答が多かったものを出題したそうだが、係が掲げていたのは「フラッシュカード」。重要語句、キーワードなどをカード化したものだが、繰り返し取り上げることで、生徒たちは素早く反応できるようになるのだという。
 復習クイズが終わると、先生は机間指導でノートをチェック。予習状況の確認だ。
「新単元が始まるときに『コンセプトマップ』(図版1.)という単元の重要事項をまとめたものを渡しておきます。それを見ると、今日の学習内容がわかるので、そのなかの太字の部分について調べることが宿題だったのです。ほぼ9割の生徒はしてきます。点検で理解できていない箇所もわかるので、その箇所については、授業のなかで、特に丁寧に指導するようにしています」(三輪先生)
 ノート点検後に5問テスト。3問目までは前時の学習に関する設問、4、5問目には、高校受験を意識して地理と歴史の問題を加えてある。
 ここまでが導入で、次に「法を守る裁判所」の学習に入る。近くに裁判所もないため、生徒の生活とは遠く感じられる内容だ。スポーツの審判の例、身近な金銭貸借の例を引くなどしてその役割を学習していくが、この間もカードが大事な役割を果たす。最後は、「マスターシート」による確認テストで授業を締めくくる。自己採点させ、挙手で確認する。このように、評価も授業のさまざまな場面で、指導と一体化して細かく行われている。
●1つの事項を7回学習。あえて「教え込む」ことも。
 三輪先生の授業は、1時間を通して非常に明快だった。おそらく生徒も、この授業では何が重要で、何を覚えておけばいいかがはっきりとわかったはずである。
「確かな学力をつけるためには、『徹底指導』と『能動』のメリハリをつけた授業展開が必要だと考えています。重要事項は、あえて徹底して教え込むことも必要なのです」(沖田典雄校長)
 こうした授業を可能にするには、生徒に身につけてほしい基礎的・基本的事項を明らかにしなければならない。同校では、2001年度に全教科の「基礎・基本」の一覧表を作成。2002年度は新教育課程に沿って、随時つくり替えながら利用している。
 一覧表の活用法は教科・先生によって違うが、三輪先生の場合、コンセプトマップやフラッシュカード、さらには定期テスト問題もこれをもとに作るのだという。つまり生徒にとっては、1つの事項について1.予習、2.授業、3.復習、4.5問テスト、5.フラッシュカード、6.マスターシート、7.定期テストと、7回も学習の場面があるのである。これだけ繰り返せば、無理なく定着するはずである。
「マスターシート」(図版2.)というのは、基礎・基本を押さえた手作りプリントのことであるが、5教科全学年分が作られ、廊下や空き教室などに備えられている。生徒はテストの前だけでなく、休み時間や放課後を利用して、復習をしたり力試しをしたりする。生徒の間でも、「知らないうちに力がつく」「問題の量がちょうどよい」など、好評である。
●生徒へのアンケートで授業や取り組みを厳しく見つめる
 こうした基礎・基本にこだわる学習の成果は、生徒にどのようにはね返っているのか。
「家庭学習の時間が目に見えて長くなっています。全校生徒平均が2001年度は43分でしたが、2002年度は84分になりました。また、毎年4月に実施する全国標準学力テスト(教研式)の偏差値(5教科総合)が、2000年度に47.5であったものが、2002年度には52.5まで伸びています。この結果に、先生方は自信を得ています」(沖田校長)
 同校の実践に結果がついてきているのは、生徒を対象にした授業改善アンケート(図版3.)に基づいた実践であることも大きい。同アンケートは、2001年度から始めて、すでに3回実施している。
「学級ごとに結果が出るし、厳しい声もあります。教師の本音としてはやりづらいものですが、そうしたアンケートが実施できる学校の雰囲気を評価しています」(沖田校長)
 残された課題はなんだろうか。
「生徒たちは素直で、教師に言われたことにちゃんと取り組み、力をつけてきました。あとは、学んだことを活用し、主体的に課題に取り組む力をつけることです。それには、問題解決型の学習が有効です。まず、国語・社会・理科に限定してどんなことができるかを一覧表にし、年間を通して行えるようにしてみました。それらの教科の授業で実践し、総合的学習のなかでも生かしていきたいと思っています」(三輪先生)
社会科3年生・公民的分野のコンセプトマップの一例。「基礎・基本一覧表」をもとにつくられている。単元の始まる前に生徒に渡されるので、生徒はこれをもとに予習をしてくる。
図版1.



マスターシート・社会科の例。廊下や空き教室に備えてある(写真参照)ので、生徒はいつでも取り出して学習できる。
図版2.



授業改善アンケートの様式。先生たちは毎年、これを分析して、授業改善の対策を立てる。
図版3.



三輪貴史先生の3年生社会科・公民的分野の授業。ほとんどの生徒が予習をしてくるので、大事なポイントにしぼって展開される。カードが効果的に使われる。



マスターシートコーナー。




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