新しい評価と高校入試 取り組み事例12
宮崎県串間市立大束中学校


●取り組みの要点
  1. 串間市では1997年度から市を挙げて学力向上に取り組み、それぞれの学校が実践を積み重ねているが、なかでも大束中学校では、2002年度、文部科学省などの学力向上フロンティアスクールに指定され、「個に応じたきめ細かな学習指導」と「地域や家庭と連携した家庭学習の充実」の両面から取り組みを始めている。
  2. 個に応じた指導の具体策として数学と英語で少人数学習に取り組んでいるが、特徴の1つは、グループ編成。いずれも習熟度別編成で、基礎・基本コースと発展コースの2つに分けるが、数学は単元ごと、英語は章ごとに入れ替え、グループを固定しないことにある。
  3. 学力向上の取り組みは、家庭、地域ぐるみで行われている。保護者も協力的で、PTAのなかに「学力向上委員会」が設けられ、「午後9時以降のテレビ視聴をやめて、子どもたちが勉強に集中できるように」など6項目を掲げて、ともに学力向上に励んでいる。


●基本情報
真木 博校長、生徒数145人、7学級(特殊学級1含む)
●学校住所
〒889-3532 宮崎県串間市大字大平5714番地
電話&FAX 0987-74-1034
●学校の環境
 串間市は、南北に長い宮崎県の南端、鹿児島県との境にある。国の天然記念物である野生馬が放牧されている都井岬のある町としても知られている。大束中学校は、市の中心部から車で約20分ほどの盆地にある。保護者の約9割は農業を営んでおり、学校の周囲にも広々とした畑や牧畜用地が広がっている。休日には家業を手伝う生徒も少なくない。校区は市内の中学校でいちばん広く、8㎞も離れた地区から通ってくる生徒もいるほどで、9割が自転車通学をしている。
 1997年に改築された生徒棟には、地元名産の飫肥杉がふんだんに使われて、ナチュラルでぬくもりのある教室になっている。生徒たちは純朴で礼儀正しい。



■少人数授業や家庭・地域との連携した取り組みで学力向上をめざすフロンティア校■

●市を挙げて学力向上に取り組んできた実績を生かして
 串間市が「学力向上」を全市のテーマに掲げたのは、県立学校入試において、地元の高校の成績が県の中央部と比べて差が大きかったためで、串間市教育委員会では、96年に学力向上に関する協議会を組織し、97年度から学校ごとに具体的な学力向上策に取り組むことになった。そして、市の17の小・中学校を3つのブロックに分けて、「学力向上実践研究発表会」を開くなどして、つねに学力を意識した活動を行いながら現在に至っている。
 大束中学校では、2002年度、文部科学省および県・市の教育委員会から「学力向上フロンティアスクール」の指定を受けた。すでに実践している学力向上策をさらに充実・発展させることを求められている。
 同校の学力向上のためのアプローチは、大きく2つの側面から行われている。1つは、「個に応じた指導」で、少人数学習を中心とした実践である。2つめが、学校週五日制が実施されてますます重要になった、家庭や地域と連携した家庭学習の充実である。学内の研究組織も「学習指導研究班」「地域連携研究班」に分かれ、それぞれの班ごとにテーマを深めようとしている。
●単元ごとにグループ編成を見直す少人数学習
 少人数学習は数学と英語を全学年で、習熟度別に実施している。すでに2001年度から実験的に試みていたものを2002年度から本格的に取り組んだ。「基礎・基本」と「発展」の2つのコースに分けているが、1コースにつき8~15人ほどの小集団となる。
 2年生数学の「一次関数」の学習を見学させてもらった。1学級が「基礎・基本コース」が8人と「発展コース」13人に分かれている。これだけの人数だが、空き教室を利用するので、独自の教室が確保できる。そのためかどのコースも、非常にゆったりとした雰囲気で進められているという印象だ。基礎コースは、y=3のグラフについて、数値をいくつも当てはめながら丁寧に進めていた。一方発展コースは、応用に当たる「一次関数の利用」にまで進んでいて、小さなヒントで生徒がどんどん問題を解いていく。ゆったりとしたなかにも緊張感のある授業であった。
 同校の習熟度別少人数授業の特徴は、単元や章ごとにグループ編成を行うということだ。
編成のもとになるのは、学習する単元のレディネスを知るための事前テスト。例えば、二次関数の単元のときは、一次関数についてどれくらい習熟しているかを調べる問題を出す。そのテストの結果と、本人の希望を合わせてグループを分ける。
「純粋に本人の希望だけで編成したこともありましたが、ついていけないからと、コース変更を申し出た生徒もいます。ですから、教師側の編成と生徒の希望が異なるときには、よく話し合うようにしています」(教務主任久保田博則先生)
 グループを固定しないことは生徒の意欲向上のためには重要だが、「進度をそろえるのに苦労する」(英語担当山下紀子先生)そうだ。つまり、発展コースはどんどん先に進めるが、かといって次の単元には進めない。年間計画の枠を守るとしても、基礎・基本コースの進度に合わせていると、全体の進度も気になるところだ。
 しかし、習熟度別少人数を実施したことで、生徒の発言や発表の機会が増えるなど、能動的な学習態度が目立って出てきたという。2002年度に実施された県の統一テストで、前年度より上向きになるなど、数値のうえでも結果が出ているし、生徒たちが多く進学する県立福島高校の先生方からも生徒たちの変化が伝えられている。
●PTAと協力して家庭学習を充実させる
 同校の学力向上策のもう一つの柱「家庭学習の充実」は、PTAの協力なしには考えられない。同校のPTAでは独自に「学力向上委員会」を組織し、各家庭に「PTA実践6項目」(別途表参照)を提案している。「午後9時以降はテレビを見るのをやめて、子どもたちが勉強に集中できるよう家族みんなで協力」といった保護者にとっても厳しい項目が並ぶことから、PTAの意気込みが伝わってくる。学校もPTA任せにせず、地域連携研究班が『STEP UP』という通信を出して、保護者の啓蒙活動をしたり、昼間の授業参観や懇談会に参加できない保護者のために夜、教師と保護者の懇親会を開くなどして、家庭学習環境づくりのための話し合いをしたりしている。
 こうした先生と保護者の活動に負けじと、生徒たちも自主活動を始めた。生徒会執行部が生徒による「学力向上委員会」を呼びかけた。すると、3年生を中心に10人ほどが集まり、PTAとともに6項目を一緒に取り組む活動を始めた。研究主任の森本顕也先生によると、今後は、学習の悩みに生徒同士で答え合う集会などを試みたいと考えている。
 こうした、学校と保護者が一体となった取り組みで、確実に生徒の家庭学習の量は増えている。2002年10月に生徒に実施したアンケートによると、3年生のおよそ3割が2時間以上(平日)の家庭学習をしていることがわかった。学校では家庭学習時間の目安を、学年+1時間(3年生なら3+1=4時間)としているので、まだ目標には到達していない。が、教室の壁や生徒の机には、「2時間以上の家庭学習」「苦手教科の克服」などといった努力目標が掲げられていることから、生徒が高い意欲を持っていることがうかがえる。全国的に子どもたちのモチベーションが低く、学校外学習の時間が減少している現在、同校の地域や家庭を巻き込んだ学習環境づくりから学ぶものは大きいのではないか。

大束中学校PTA「学力向上委員会」による「実践6項目」の提案
  1. 「ファミリータイム」を設定し、子どもたちに学校の様子を聞くなど、子どもたちへの「声かけ」「対話」を積極的にやりましょう。
  2. 午後9時以降はテレビを見るのをやめて、子どもたちが勉強に集中できるよう家族みんなで協力しましょう。
  3. 学校からの連絡プリントにしっかり目を通し、返信もできるだけ書くようにしましょう。
  4. 休日には家族みんなで読書をするように心がけましょう。
  5. 学校での子どもの姿を見るために、参観日にはできるだけ出席しましょう。学級連絡網で連絡を取り合い、みんなを誘って出かけましょう。
  6. 子どもたちが家庭で最低2時間以上は学習したことを見とどけましょう。
1グループ10数人の少人数授業。大ぜいのなかでは質問できなくても、この集団なら、 わからないことはわからないと言える。



ALTが加わった英語のチームティーチング。生徒の集中力は高い。途中、少人数グループに別れて学習する場面も設定。



教室の後ろの壁に掲げられた生徒たちのスローガン。ほかの掲示物からも生徒の意欲の高さが伝わってくる。




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