習熟度別に教員が教材プリントを作成 |
取材で見学した1年生・数学の習熟度別授業は、「一次方程式」の単元。基礎コースは、計算を文字式で表現する過程を丁寧に指導していた。これに対して、中間コースは、方程式の解き方が中心。さらに発展コースは、生徒にいろいろな解き方を考えさせ、その過程から方程式の特性を学ばせるという内容で進められていた。
同校の習熟度別授業の特徴は、教員が作成する教材プリントの内容が各コースごとにそれぞれ異なることだ。習熟度別授業を実施している学校では、生徒間に差別感を生まないようにするという配慮から、教材の内容は同じにし、分量を習熟度ごとに変えるだけという学校も少なくない。
これに対して、牧野校長は、「三つのコースで同じ教材を使用すれば、習熟度別に分けた意味がない」と言い切る。同校では、この習熟度に応じた教材プリントの開発と充実は、今後の大きな課題の一つに挙げられている。
生徒や保護者の差別感を生むという理由で、習熟度別授業に反対する意見は、依然として根強く残っている。しかし、2年生・英語の習熟度別の授業で、何より驚いたのは、「ベーシックコース」の生徒たちの表情がとても明るく、閉塞感が少しも感じられなかったことだ。
英語は数学と並んで生徒間の習熟度の差が大きく、授業で終始うつむいていたり、英語をまったく発しないという生徒も少なくない。だが、同校のベーシックコースの生徒たちは、たどたどしい発音ながら、知っている英単語をつなげて積極的に話していた。牧野校長は、「普通の授業では、めったに手を挙げない子どもが、ベーシックコースでは生き生きとしています。これは習熟度別授業の大きな成果ではないでしょうか」と話す。
実際、「ベーシックコース」の生徒の声を拾ってみると、「自分に合った内容なので、わかりやすい」という声がほとんどだ。また、「授業中の雰囲気が明るいから楽しいです」という意見も多かった。 |
ちょうどいいペース/質問しやすい/いい刺激に… ──生徒の声から── |
◇◇◇ベーシックコース(英語)
●自分に合った授業なのでわかりやすく、それほど他の人と差もないので、授業に活気があり、とてもよいと思います。
●普通の授業だとバンバン先に行ってしまうのですが、コース別だと、ちょうどいいペースで進むことができます。
●周りが自分と近いレベルなので、勉強が一緒にできて、やる気が出ました。
●少人数なので先生と生徒の距離が近く、質問もしやすくて授業がとても楽しい。人数が少ないから発表するときも緊張しなくていい。
●普段のクラスだと、わかる人はわかるけど、わからない人は困る。だから少人数のほうがやりやすい。
◇◇◇アドバンストコース(英語)
●周囲の学力も接近していたので、いい刺激になりました。
●レベルが同じくらいの人が集まっているので、やる気が出て集中できました。
●普段のクラスでの学習では、自分だけが発表している感じだけど、コースにくると、みんなわかっているのでなかなか発表できない。自分も頑張ってやろうという気が出る。 |
習熟度別授業は差別感を生むという指摘が、まったく間違いであるとは断言できない。しかし、同校の生徒たちを見ていると、差別感を生む原因は、習熟度別授業そのものではなく、活用の仕方や保護者などに理解してもらう努力など、学校の姿勢にかかわっていると認識させられた。 |
▲写真1 1年生数学「基礎コース」の授業。雰囲気が非常に明るく、全員が授業に参加している
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基礎と発展コースで成果、中間コースの指導に課題 |
同校が実施した生徒へのアンケート調査によると、少人数・習熟度別授業で、「数学がわかるようになったか」という質問に対して、「わかるようになった」は41%、「なんとも言えない」は59%。「少人数授業が好きか」では、「好き」が45%、「嫌い」が12%、「どちらとも言えない」が43%となった。
この結果をどう評価するかは判断が分かれるところだ。ただし、数学の学力テストの結果からは、基礎コースと発展コースの生徒の成績が全体的に向上していることが明らかになっており、習熟度別コースによる少人数授業は一定の成果を上げているといって間違いないだろう。
ただ、中間コースの生徒の学力テストの成績には、まだ明確な変化が表れていない。生徒へのアンケート結果でも、その傾向が読みとれる(図2)。 |
▲図2 3年生の生徒を対象に行ったアンケート結果(%)
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牧野校長は、「基礎コースと発展コースは、指導のねらいがはっきりしており、やりやすいともいえます。問題は中間コース。ここの生徒を今後いかに伸ばしていくかが課題」と説明する。
このほか、習熟度に応じた教材プリントの開発も、担当教員の負担が大きく、作成のための時間がなかなか取れないというのも悩みの一つだ。
習熟度別の少人数授業について、牧野校長は最後に、「実施教科の数学と英語にばかり関心が集まるが、習熟度の差は全教科で表れる。他の教科も含めて、学校全体で取り組まなければ意味がない」と指摘した。 |
▲図3 自分の学習状況を把握させるためにも自己評価は欠かせない。目標が達成できた生徒は成就感、満足感を感じ、学習意欲も向上する
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