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教育現場の挑戦●二学期制

石川県金沢市立
鳴和中学校
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行事は継続しながら旧課程を上回る時数
 金沢市教委が2004年度から全市一斉に二学期制を実施する方針を明らかにしたのは、2002年1月である。鳴和中に同年4月からのモデル校指定の打診があったのは、2月ごろだったという。
 当時、教頭だった柳瀬明校長(その年の4月に昇任)は「どうせ2004年度から全校で実施するのだから早く始めようと、教員を説得しました」と打ち明ける。
 導入に際しては、これまで行ってきた生徒にかかわる学校行事をすべて継続し、実施時期もほとんど変えないことにした。「行事には子どもの成長にとって、言葉に表せないほどの力がある」(柳瀬校長)との考えからだ。
 始業式は従来通り4月5日のままとし、夏休みは7月20日から、例年より2日間短い8月28日までと設定。その2日分と土・日を合わせて10月5~8日の4日間を秋休みとした。
 さらに短縮授業の見直しも行い、年間実施授業時数は、1年生1036時間(2001年度+13時間)、2年生は1037時間(同+19時間)、3年生982時間(同+36時間)と、隔週五日制のときを上回る授業時数を確保できた。
面談の教師用資料として「学習助言簿」を作成
 二学期制について柳瀬校長は、「器が変わるだけだ」と言い切る。むしろメリットは「教員の意識が変わるという波及効果のほうが大きい」のだという。
 その代表的なものが、評価のあり方だ。もちろん鳴和中でも、新教育課程に対応した評価方法の研究はそれまでにも重ねてきた。しかし、二学期制への移行によって、それ以上の見直しが求められることになった。
 三学期制の場合、学年末の通知表で学年全体の評価を生徒や保護者に伝えることができた。しかし二学期制では評価のスパンが長くなるため、後期は後期分のみの評価で手いっぱい。しかも、7月の夏休み直前に行っている保護者との面談時に、最大の資料となるはずの通知表がない。
 そこで、通知表とは別に、教師用の資料として「学習助言簿」を作成した(図1)。
図1 学習助言簿
▲図1 保護者面談の資料となる「学習助言簿」。各教科の先生が、担任する全生徒のデータを入力すると、生徒ごとに一覧表となる仕組み。観点項目別の評価も自動的に出る

 これは、表計算ソフトを利用して、各教科でそれぞれ観点ごとに評価を記入。教科全体の講評も教科担任がコメントとして記載する。それにより、生徒ごとに全教科の学習状況が一覧表になって出てくる仕組みだ。
 こうしたことができた背景には、同校が2001年度から市の情報教育モデル校に指定されていたこともあった。職員室にはほぼ一人1台のノートパソコンが整備され、校内LANで結ばれている。各教科の担任は、空いた時間に自分の机で生徒の評価を入力できるというわけだ。
写真1 職員室で成績入力
▲写真1 職員室で成績処理中の先生。校内LANが整備されているので、生徒の成績をノートパソコンで入力すれば、自動的に集約される

 「これまで通知表といえば、厚紙に印刷されて二つ折りになったもので、『もらったら神棚に上げておくもの』という感覚が教員にもあったと思います。保護者との面談でも通知表の評定に“力”があったので、あぐらをかいているところがあったのではないでしょうか」と柳瀬校長は指摘する。
 しかし、学習助言簿をもとにした面談では、より具体的に生徒の学習状況や今後の課題を保護者に説明することが求められる。そうしたこともあって、「授業が終わってから生徒の状況をすぐメモするなど、先生方の目の色が変わってきた」(柳瀬校長)のだという。
写真2 通知表
▲写真2 以前から評価の改善を研究してきた鳴和中では、通知表も充実。透明ファイルを使い、記述スペースもゆったりしている

職員会議などでも建設的意見が活発に
 そうしたきめ細かな評価を行うには、どうしても時間がかかる。教員が毎日、夜8、9時まで職員室に残るのは当たり前の光景になった。「成績をパソコンに入力する時間を確保するなど、先生の負担をどう軽減するかは今後の課題」と柳瀬校長も頭を痛める。
 ただし、そうした多忙化も、むしろ個々の教員が熱心に取り組んでいることの結果だという。「生徒一人ひとりに対するコメントは『なくてもいい』と言っているのですが、みんな書いてくれますね」(柳瀬校長)
 さらに、職員会議などにも変化がみられるようになったという。
 二学期制の年間指導計画などは教務部が中心になって立てたが、初年度は「先生方からの意見はほとんど出なかった」と南千之教頭は振り返る。それが、実施されてからは「こうしたほうがいい」という建設的な意見が盛んに出るようになり、今では教務部の提案がひっくり返されることもしばしばだという。授業時数確保のために昨年度取りやめた家庭訪問を今年度復活したのも、教員からの提案だった。
 授業時数増だけに頼らない学力向上の取り組みとして、今年度から始めたシラバス(学習年間計画)づくりがある。学年ごと、学期別に冊子にまとめて配布しているのは生徒にも計画的・自主的に学習に臨んでもらいたいという願いからだ。これも、先生方の熱意でかなり詳しいものに仕上がったという。
 「先生方はまじめだし、力はありますよ。これまでは、上から降りてきたものを忠実に実行しなければならないという意識が強すぎて、そこからはみ出すことができなかったんでしょうね。必ずしも現場が悪いわけではなかったと思います」
 柳瀬校長はこう話し、学校を活性化するきっかけづくりの必要性を強調する。
前・後期を2分割して季節感の演出も
 三学期制には、夏休みや冬休みで区切れるため「季節感」があるが、二学期制にはそれがない。そのため03年度は、前期を「起(春)」と「承(夏)」、後期を「転(秋)」と「結(冬)」と位置づけ、行事にメリハリをつけるなどして四季のある学校づくりをめざしている。
 柳瀬校長は「三学期制は明治以来、100年以上も続けてきて定着していたもの。二学期制にしたからといって、簡単にうまくいくとは思っていません」としながらも、「システムを変えることによって、教員の意識も変わります。教員がまとまれば、今よりもいい実践ができるようになります」と、二学期制の導入に手応えを感じている。
 そのうえで、これから導入を検討する学校に対しては、こうアドバイスする。
 「二学期制そのものにメリットがあるというより、運用の仕方によってメリットが出てくるものです。人のまねをするだけでは改革になりません。自分の学校の状況に合わせて取り組むことが大事なのです」
鳴和中の学期制の移り変わり
 
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