ベネッセ教育総合研究所 ベネッセホールディングス
教育現場の挑戦●二学期制

東京都多摩市立
落合中学校
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統合に対する地域の反発が要因
 3年生の社会科の授業。この日のテーマは薬害エイズに関する資料を読んで、気がついたことを班ごとにまとめていくものだったが、生徒たちは静かに話し合いを進めていた。
写真1 3年生社会科
▲写真1 3年生の社会科の授業。班で話し合ったことを代表が板書。見守る山岸秀一先生。3年生ともなると班単位の話し合いは慣れたものだ

 「3年生は話し合いの授業に慣れているということもありますが、参加しないでほかのことをしているような生徒は、この学校にはほとんどいません。視察に来た人がびっくりするほど、落ち着いた授業ができています」(福士賢司校長)
 そんな落合中学校の成り立ちには、大きな曲折があった。同校は2000年度、それまで教育困難校と見られていた学校と、比較的落ち着いていた学校を統合して誕生した新設校。それも困難校の校舎を使うかたちを取ったため、保護者や地域住民の反発が少なくなかった。
 統合が決まった直後の1998年4月、以前は困難校であったほうに着任した福士校長は、「実際には先生方の苦労と努力で学校はかなりよくなっていたのですが、それまでの悪いイメージが払しょくできるわけではありませんでした」と振り返る。
 それだけに、新設校では「従来の発想を捨てよう」(福士校長)と、最初からまったく新しい学校づくりをめざした。その核の一つに据えたのが、二学期制への移行だった。
 最近は自治体主導で二学期制を導入する学校が増えているが、同校の場合はそうした独自の事情から、二学期制が必要だと判断した。学校管理運営規則上、多摩市では現在も三学期制が原則となっており、そのため「試行」という位置づけで研究を行っている。
きめ細かな評価が生徒の安心につながる
 二学期制を導入した最大のねらいは、授業時数の増加によって学習活動にゆとりを持たせること。落ち着いた環境のなかで、だれもがわかる授業を実施し、きめ細かな指導を行うことで、学習意欲を向上させたかったからだ。
 中学校で二学期制を導入する場合、始業式・終業式や定期テストの回数が減る分の授業時数が確保できる半面、通知表を渡す機会が3回から2回に減るため、きめ細かな評価を生徒や保護者に伝えにくくなる難点がある。
 そこで落合中では、通知表とは別に年3回、「学習の記録」(図1)を発行することにした。
図1 学習の記録
▲図1 年3回発行している「学習の記録」。通知表に比べて記述がより具体的であり、生徒は「先生は自分たちのことをよく見ていてくれる」と、もらうのを楽しみにしているという

 これは7月、12月、3月の三者面談に合わせて、事前に教科別の学習状況を知らせるもの。観点別評価を基本に、できるだけ生徒や保護者にわかりやすいかたちをめざした。
 当初は3、4年かけて評価方法を定着させようと考えていたが、実際には1年もかからなかったという。半年も経たないうちに、生徒がみるみる変わっていったからだ。
「生徒たちは、学習の記録や面談で、先生方がここまで自分たちのことを見ていてくれるんだということがわかって、安心するようです」と、教務の青木睦主幹は解説する。
 実際、入学当初はなかなか落ち着かなかった生徒も、7月の面談を終えると学習に目が向くようになったのだという。
 学習の記録の存在は、面談に臨む学級担任の先生にとってもメリットが大きい。以前ならば自分が教えている教科は別として、保護者に生徒の学習状況を伝える素材は、通知表の評定しかなかった。それが、他教科も含めたきめ細かな情報を伝えられることで、家庭との連携が取りやすくなったという。
 もちろん担任自身にとっても、各教科の学習状況を知ることは、深い生徒理解につながる。
 さらに、きめ細かな評価が求められることで、先生方の授業の方法も少しずつ変わっていったという。班活動や個人発表、レポート提出などを取り入れることで、一人ひとりをよく観察しようという姿勢が強まったというわけだ。
 こうした授業改善は「当初それほど意識していたわけではありませんが、評価方法改善の副産物でした」(福士校長)。
 ただし、実質的に評価の回数が増えたため、成績処理の時間が大幅に増えたことも確か。落合中ではコンピュータで評価資料を集計することで、効率化を図っている。
表1 落合中学校の評価活動
▲表1 落合中学校の評価活動

年間28~42時間の授業時数増が可能に
 二学期制の導入によって、授業時数が増えるのも確かだ。
 現行の教育課程に移行してからは年間総授業時数を標準通り980時間で計画しているが、2002年度の場合、実際には1年生で42時間、2年生で28時間、3年生で34時間の時数増が可能になった。
 これは、始業式・終業式、定期テストと短縮授業が減った分はもとより、面談の時間に対象生徒以外を「総合的な学習の時間」の調べ学習に充てたり、行事の見直しや精選を行ったりした結果だ。
 教務部では、2月までに各教科の担当教師から指導計画の提出を求めたうえで、細かな授業時数入りの年間行事予定表を前年度中に示している。これに基づいて計画的に授業を進めていることも、教科間でばらつきのない時数確保に役立っているという。
学校選択制で学区外から20人以上入学
 「子どものことを、細かく見てくれています。子どももわりとゆったり過ごせているようです」
 「3年生には入試の前に評定を出してくれますから、二学期制でもなんの心配もありません」
 1年生の総合学習発表会を参観していた保護者は、学校への信頼をこう話す。
 多摩市では今年度から、学校選択制を導入した。従来の通学区域を基本としながらも、希望があれば可能な限り他の学区の児童・生徒も受け入れるものだ。
 これにより落合中では今年度、20人余りが学区外から入学した。一方、学区内から他校への流出は、ほとんどなかった。来春も40人ほどが学区外からの入学を希望している。福士校長も、「今のところは地域や保護者に認められているのかな、と思います」と安心する。
 そんな同校にも、課題はある。
●他の学校が三学期制のため、部活動の試合予定と定期考査の時期が重なることがある
●3年生だけは7月と12月にも評定を出さなければならない
●定期試験の回数が減って子どもが勉強しなくなるのでは、という保護者の懸念にどう応えるか
●通知表の評定と学習の記録の観点別評価との整合性をどう図るか――などだ。
 これから二学期制を検討しようとする学校に対して福士校長は、「学校が古いしがらみにとらわれていては、これからの社会の変化に対応できません。現在行っていることを一つひとつ新しくしていく、という考えでなければ、せっかく二学期制で生まれたゆとりが生かされないのではないでしょうか」と指摘する。
 
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