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元気がない子がコンピュータを使うといきいきしてくる
田中 実践報告で、玉置先生からは、授業でどのようにコンピュータを活用しているか、升田先生からは、校内LANを学校全体としてどのように活用してきたかをお話しいただきました。
 まず、玉置先生に質問します。授業で豊かな発想をするのは、どんな生徒ですか?

玉置 例えば、五角形の内角の和を求める問題では、塾などで先行学習をしている子どもは、「五角形の内角の和を求めるには、頂点を軸にして、三角形で分ければいい」という考えで固まっています。面白い考えをつぶやくのは、ペーパーテストでさほど点数をとれないような生徒です。コンピュータを活用すると、こうした柔軟な発想が生まれます。それを大切にし、できるだけクラス全体で共有していくようにしています。

田中 普通の授業ではあまり元気がない子どもも、ITを使えばいきいきとしてくるんですね。条件不足の数学の問題を教育ソフトを使って解決する授業では、生徒同士が教え合い、学び合いをしていましたね。

玉置 あのときは、コンピュータを3人で1台使いました。2人で1台だと、どちらかが優先して使いがちですが、3人なら、話し合いが生まれます。
コンピュータ導入前の仮説プランが生きた
中川 何か学校に機器が入ってきたとき、「どこでどのように使えるか」と升田先生のような発想をする人が必要です。先生は、情報教育推進リーダーとして、各教科や担当にどこまでかかわっているのですか。

升田 それぞれの先生がコンピュータをどのように活用しているか、いちいち確認しているわけではありません。先生方がコンピュータを使った授業をするたびに、実践レポートを書いて、私のところに持ってきてくれる。だから、自然と他教科のことを把握できるわけです。
 もっとも、いきなり実践レポートが書けたわけではありません。2001年度はコンピュータが完全には整備されていなかったので、生徒と向き合う前に、授業のどんな場面に使えるのか、仮のプランをつくってみました。家を建てる前に間取りを考えるような感覚です。おかげで、2002年度はたくさんの実践レポートが集まり、なかにはA4の枠からはみ出るものもありました。

田中 コンピュータが入ってから一年余りだと思いますが、なぜそこまでできたのですか?

升田 仮説プランを立てて実践したことと、もう一つ、実践に移る段階で、「コンピュータを使うだけが情報教育ではない」と強調したこと。例えば、いきなりコンピュータではなく、教室でビデオを流してもいいと、気楽に始めてもらいました。
 その一方で、「モデル校の鳴和にいたのだから、異動したら、コンピュータが使える人だと思われるよ」と脅したことも…(笑)。
 考えてみれば、「短期間でよくここまできた」というのが実感です。リーダーとしては、先生方の質問にはきちんと答えられるように心掛けました。
 なお、鳴和中では「たねっとランド」というグループウェア(注1)を使っていますが、これには、インストラクターが配置されています。授業計画の段階から相談に乗ってもらえるので、心強いです。
基本は教員間のオープン性
玉置 ITの活用が広がるためには、授業に使う以前に、教師がコンピュータのよさを知ることが大事だと思います。小牧中では、全職員の机の上にコンピュータがありますが、そのうちの8割以上が個人のものです。そうなったのは、コンピュータが便利だとわかったからです。
 例えば、テストの結果を入力したら、学期末の成績処理に利用し、通知表の出力までそれを使って行う。さらには指導要録にまでも、そのデータが生かされるようにしてあります。1つのデータをそこまで効率よく使おうというのですから、先生方に抵抗はありません。
 しかし、授業に使うとなると、抵抗がある人もいる。だから、プロジェクター(注2)を使ってパソコン画面を黒板に映すという簡単なことから始め、よいマルチメディア教材を見せるだけでも授業に効果があるということを示します。
 得意な先生が苦手な先生と日常的に活用方法について会話することで、知らず知らずのうちにコンピュータスキルは身につく。ITを広げる基本になるのは、情報を共有しようという職員間のオープン性ではないでしょうか。
 うちの学校では、朝の打ち合わせもグループウェアを使い、時間の効率化を図っています。そうして生まれた時間を利用して、1分間スピーチをします。ねらいは話術の向上ですが、ある先生が、「痛風です」と話をしたら、担任を通じて生徒に伝わり、授業に行けば、「先生、痛風はどうですか」ときかれる。学校が非常に開放的になる。
授業の効率を求めれば、能率は下がる
田中 IT活用で教師が生の声で話すゆとりが生まれるという、ヒューマンな関係が成立しているのですね。
 ところで、会場に金沢星稜大学の岡部昌樹教授(注3)がいらっしゃいます。IT活用について感じていることをお話ししていただけませんか。

岡部 私が中学校を訪問して感じるのは、小学校とのギャップです。中学校の先生は、他教科の活動についてはあまり口を出しません。そのことが、ITの普及を遅らせていると感じます。
 ITの普及には、推進するリーダーの資質も大きいですね。リーダーは必ずしも機器に長けている必要はありません。授業について、ひと言いえる先生であればいいと思います。
 もう一点、「能率」と「効率」はまったく違った概念で、能率は時間軸で、効率は目標軸。IT活用のように効率がよいものは、ほとんど能率はよくない。ITを使うことで授業の能率が上がるとは考えないほうがいいと思います。
新しい学力はITで育つ
田中 最後に、高校受験というハードルのある中学校で、ITを使って、子どもの成長を促すには、どのようなことを考えていけばいいでしょうか。

玉置 新しい評価規準でも、思考力、判断力が学力の大事な要素であることが強調されています。しかし、従来の授業だけではそれは育てられません。ITを使えば、情報を読み取り、判断する力がつく。とりあえず、だまされたと思って使ってみることをお勧めします。

升田 ITといっても、まず、教育課程が先にあります。そこから、情報機器を使ったほうが教科のねらいに迫れると思えば、使えばよいのです。
 受験圧力がITの普及を遅らせるといいますが、石川県では、高校入試でも、「読み取る力」「まとめる力」が求められるようになりました。ITで培った力は、入試でも役立つと思います。

中川 だまされたと思ってITを使ってもらうようにするためには、使わざるを得ないところに追い込む仕掛けが大事です。まず、できそうなところからやる。できないことはあきらめる。
 研修をするのであれば、特別な時間を組むのではなく、休み時間などに、「ちょっと、デジカメの使い方を教えてあげるよ」と、ラフな誘い方をするとか。ITを通して人間関係を紡ぐようなやり方を考えたいですね。
(注1)ネットワークを利用して、グループで作業するためのソフト。「たねっとランド」には、掲示板機能、メール機能、データベース機能などがついている。
(注2)スクリーン等にモニター画面を映写する機器。プレゼンテーションアイテム。
(注3)メディア教育が専門。金沢大学教育学部附属教育実践総合センター研究員も務める。

■■■中学校実践事例報告から■■■
●玉置崇先生の数学の授業でのIT活用例 鳴和中学校のLAN活用例
  • プロジェクターにノートパソコンをつないで、黒板に問題等を直接投影して見せる。これなら、これまでの授業スタイルのなかにも持ち込める。
  • 図形の証明で作図ツールを使う。どのようなケースにも当てはまるなど、図を自在に変形して見せられる。
  • あえて条件不足の問題を出して、問題解決に必要な情報をコンピュータのシミュレーションから得るという学習。これを通して、現実とどうかかわれば問題が解決できるかという総合的学習の基礎になるものも学べる。
  • 調べ学習で、5階の図書館、2階のメディアルームの両方を使うとき、両教室の間でメールでやりとりする。
  • 体育のマット運動学習で、正しいフォームをサーバーから取り込み、それに自分のフォームを重ねてみて、どこが欠点かを知り、修正していく。
  • 朝礼時の健康観察の結果を、係が教室のパソコンから保健室のファイルに入力。しばらくすると、全校の欠席者、風邪の罹患者数等が、グラフとなって職員室に張り出される。インフルエンザの発生期等、素早く対応できる。
 
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