ベネッセ教育総合研究所
特集 中学校のキャリア教育を考える
仙崎 武
仙崎 武 文教大学名誉教授
せんざき・たけし●1926年鳥取県生まれ。キャリア教育、進路指導研究の第一人者として、日本進路指導学会名誉会長などを務める。著書に『21世紀のキャリア開発』(共著・文化書房博文社)、『入門進路指導・相談』(福村出版)などがある。
村上 龍
村上 龍 作家
むらかみ・りゅう●1952年長崎県生まれ。『13歳のハローワーク』(幻冬舎)以外にも『希望の国のエクソダス』(文春文庫)、『「教育の崩壊」という嘘』(NHK出版)など、中・高生や教育問題をテーマとした小説、エッセーを数多く執筆している。
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好奇心と興味が子どもと未来を結びつける
──『13歳のハローワーク』を起点にして
仙崎武(文教大学名誉教授)  VS 村上龍(作家)
村上龍氏の『13歳のハローワーク』(以下、『ハローワーク』)が、学校現場で話題となっている。キャリア教育の研究に長年取り組み、同書を高く評価する仙崎武氏と村上龍氏が子どもを取り巻く現状や、学校や大人は子どもとどう向かい合うべきかを話し合った。


子どもが変わったのではなく
大人が夢や希望を示せていない
仙崎 村上さんは『ハローワーク』のなかで、13歳を取り巻く生活状況や職業環境の変化について書いておられます。それは私もまったく同感なのですが、環境が変化するなかで、なぜ未来に対して夢や希望を持てない子どもが増えているのか、改めて村上さんの考えをおききしたいと思います。
写真
▲「好きなこと」を入り口に
514種類の職業が紹介されている
『13歳のハローワーク』(村上龍著・幻冬舎)
村上 子どもが未来に希望や目標を持っていないという言い方には、ぼくは若干の違和感があります。子どもを乳幼児のころから育てていくのは親や地域社会です。だから大人の側に夢や希望があるのに、子どもたちだけに夢や希望がないということはあり得ないんですよ。子どもたちはずっと親や教師や社会を見ながら育ってきたわけですから、大人の側で「いまの子どもは夢や希望がない」と言うのはおかしい。子どもが変わったのではなくて、大人の側で子どもに夢とか希望を示せていないだけというふうに思っているんですよ。
仙崎 しかし政治も経済も雇用も、暗い情報ばかりですよね。「夜明けの前は暗い」という言葉がありますが、いっこうに夜明けが見えないのが実態で、世の中不安だらけですが、そのなかで、どうすれば子どもたちに希望を示せるとお考えですか。
村上 敗戦直後の10年間や高度成長のときには、政治の主導で資源を再分配することによって、国民全体の生活や意識を底上げすることが可能だったと思います。
 でもいまの日本で、10年後に必ずよくなるという夢や希望を持つのは難しいですよね。もちろん社会的基盤が整備されて、豊かになったこと自体はいいことだと思っているんですが…。国の政策で国民の暮らしや充実感を全体に底上げするのは、いまの日本社会ではそう簡単な話じゃないと思うんです。
 そこで、社会がよくなって自分もよくなるんじゃなくて、これからは一人ひとりがハッピーになることで社会全体が活性化していくと思っているんです。そうすると、一人ひとりの子どもが現実の社会と向き合うことが大切になるんですね。だれでも大人になったら、働かなくてはいけません。どうせ働くんだったら、好きな仕事をするほうがハッピーじゃないかというのでつくったのが『ハローワーク』だったのです。


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