ベネッセ教育総合研究所
特集 中学校のキャリア教育を考える
PAGE 5/17 前ページ次ページ


社会が教育にお金とパワーをかけないと
子どもをめぐる格差は今後も広がる
仙崎 教育は本来、学校だけが担うものではないと思うのですが、特にキャリア教育では職場体験など地域での活動が不可欠になります。村上さんは、学校以外の教育の役割をどう考えていますか。
村上 どうもいまは教師が教育以外の難問を押しつけられている気がするんですよね。例えば小学校1年生で授業中に席に着かない子がいる。それを席に着かせるのは、教師の仕事ではないと思うんですよ。教育役割でいうと、幼稚園の仕事かもしれないし、保護者の役割かもしれない。極端な話、授業中、席に着かない子どもは家に帰したほうがいいと思うんですね。
仙崎 では学校以外の教育機能、つまり行政や地域や家庭は、子どもを育てるためにどんな役割を果たせばいいでしょうか。
村上 昔は、世間とか大家族とか、当然のように年代が違う子どもたちによって構成される仲間というのがありましたよね。そこで子どもが自然に教育されていた面があったと思うんです。よく、近所の魚屋のおじさんに怒られたとか、隣のおばさんに叱られたとか言いますけれど…。
 しかし、いまは地域社会も変わったし、家族のあり方や子ども同士の関係も変わっているから、例えば行政やNPOが、昔のガキ大将のグループにあったものは何か、近所の大人は子どもに対してどんな教育機能を果たしていたのかを研究して、その要素を持ったシステムを人工的につくらないといけないと思うんです。例えばそれは地域のスポーツクラブかもしれないし、異年齢の子どもが遊べる場所づくりかもしれない。「昔はよかった」と嘆くだけではダメですね。
仙崎 文部科学省も04年度の重点事項に、子どもの居場所づくり、学力向上対策とキャリア教育の推進の3点を挙げています。いまおっしゃったのは、子どもの居場所づくりですね。地域の教育力を新しいかたちで取り戻そうということです。
村上『ハローワーク』をつくりながら考えたのは、子どもたちをめぐる教育環境が多様化していることです。例えば、入学当初から海外留学を考えていたり、進路設計もきちんとできている生徒がいます。そういった子どもは、昔よりも増えていると思うんです。でもその一方、親の教育的関心も低いし、ひどい場合には虐待を受けながら育ってきたといった子どもたちがいて、さらに中間層も多様化している。  ぼくはその多様性は、今後もっと広がると思うんですね。教育環境ばかりでなく、社会・経済的な格差自体が広がっていますから。そのときに、もし、自分は社会から取り残されてしまったと意識する子が増えれば、社会にうまく適応できない人間が増えると思う。そうなると、社会的にも大変なコストがかかります。
 いま教育改革をしなければ、もっと深刻になりますよね。だから、行政や地域社会など社会全体で教育に取り組まないと、子どもも「大人たちは本気になって自分たちのことを考えてくれている」とは受け止めてくれないと思います。
仙崎 これから進められようとしているキャリア教育は、未来を担う子どもたちのための教育なんですね。そのためにはまず学校現場が相当本腰をいれて臨まなければなりません。同時に、子どもを中心に、学校と家庭と地域によるネットワークづくりも必要になると思います。今日の話では村上さんが大変よいヒントをくださったので、この対談を教育実践にぜひとも活かしてほしいと思います。ありがとうございました。
写真


PAGE 5/17 前ページ次ページ
 このウェブページに掲載のイラスト・写真・音声・その他のコンテンツは無断転載を禁じます。
 
© Benesse Holdings, Inc. 2014 All rights reserved.

Benesse