ベネッセ教育総合研究所
特集 中学校のキャリア教育を考える
鹿嶋研之助
鹿嶋研之助
千葉商科大学助教授

かしま・けんのすけ●文部省初等中等教育局職業教育課教科調査官等を経て、現在、千葉商科大学助教授。編著に『改訂中学校学習指導要領の展開 特別活動編』(明治図書出版)などがある。
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「キャリア教育に関する報告書」をどう読むか
2002年11月、文部科学省は外部の専門家により構成されたキャリア教育の推進に関する総合的調査研究協力者会議を発足。同会議は、キャリア教育のあり方について議論を重ね、04年1月「キャリア教育に関する報告書」(注)を作成した。同会議の副主査を務めた鹿嶋研之助先生に、そのねらいや学校現場への期待を語ってもらった。
千葉商科大 助教授
鹿嶋研之助
注 正式には「キャリア教育の推進に関する総合的調査研究協力者会議報告書」。文中では、「報告書」と表記している。


自己完結型の学校教育からの根本的な転換
 先日テレビのニュース番組で、ある有名大学の就職事情をレポートしていました。その大学では近年、卒業生のうち半数近くが就職をしないというのです。たしかに就職は厳しい状況ですが、就職先がないのではありません。学生自身が「就職する気にならない」というのです。マイクを向けられた学生の一人は、こう答えていました。「まだ社会に出ていく自信がないんです」と。
 ほかにやりたいことがあるから、就職をしないのならわかります。でも「自信がないから」とは、小学校から大学までの16年間の学校教育は、彼に何を身につけさせたのだろうと考え込みました。
 これまでの学校教育は自己完結的で、子どもたちが社会に出てからのことはあまり考えてきませんでした。進路指導といっても出口指導が中心で、勤労観・職業観の育成を意識したものではなかったのです。背景には新卒者の就職先が引く手あまたの時代が長く続いたことがあります。学校が「社会に出てから先」の教育を軽視しても、ほとんどの者がなんとか社会へと飛び立つことができたのです。
 しかし、学校を取り巻く社会状況は変わり、高卒者も大卒者も、深刻な就職難に苦しんでいます。一方で冒頭に述べたような学生も増えている。「自信がない」と語った彼を有名大学に進学させたことは、自己完結的な学校教育としては成功だったでしょう。でも「その先」を考えた教育としては、おそらく失敗でした。
 今回の「報告書」は、こうした社会状況の変化を踏まえ、自己完結的な教育から、社会への接続を視野に入れた教育への根本的な転換を学校に求めたものです。


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