特集 コミュニケーションが生まれる授業づくり
静岡県
富士市立吉原東中学校

1962年開校。富士市の南部に位置する。同じ学区にある吉永第一小学校の卒業生の3分の2が通い、ほかの小学校からの入学がない小規模校。地域の伝統芸能を媒介にした、地域住民との交流も盛んに行われている。

齋藤朗三

▲校長 齋藤朗三先生

生徒数◎181人
学級数◎6学級
〒417-0847
静岡県富士市比奈75
TEL 0545-34-0283
FAX 0545-34-0392
http://www.city.fuji.
shizuoka.jp/‾j-higashi/


VIEW21[中学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
   PAGE 7/21 前ページ 次ページ

【事例1】「対話」のある授業づくり

互いに学び合う環境を整えて生徒同士の「対話」を生み出す

静岡県 富士市立吉原東中学校

生活態度に問題はなく、授業も静かに聴く。だが―。吉原東中学校の生徒に足りないものは、生徒間の「対話」だった。3年前から「協同的な学び」を軸に、生徒同士が互いに学び合う環境づくりに取り組む吉原東中学校 を訪ねた。

授業中の「対話」が少ない生徒たち

 授業中の対話が少ない―。
  2004年4月、吉原東中学校に赴任した齋藤朗三校長は生徒の姿を見てそう感じた。吉原東中学校 の生徒たちは同じ小学校の出身のため、1年次から人間関係は安定し、生活態度にも大きな問題は見られない。授業態度も良く、「ある意味、模範的な生徒の集まり」(齋藤校長)だった。
  反面、生徒の人間関係は小学時代から固定されていた。授業中の発言は小学時代から活発な生徒に集中し、ほかの生徒はノートを取るだけ。グループ学習でも話し合いは盛り上がらず、リーダー役が1人で答えを導いてしまう。齋藤校長は物足りなさを強く感じた。
  「多くの生徒にとって、授業は教師の話を聴くだけの場でした。しかし本来の学びとは、一人ひとりの生徒の意見に対して、同意や反論を交わし合うコミュニケーションの過程で得られるものだと思うのです」
  そうした問題意識から、齋藤校長は「協同的な学び」を取り入れる方針を打ち出した。これは、齋藤校長が首都大学東京の小国喜弘助教授の指導の下で研究している教育法で、授業中の生徒同士の対話を重視し、互いに学び合う環境を整えることに主眼を置く。授業中のコミュニケーションを活性化し、生徒が学びを深めていくことを狙ったものだ。
  齋藤校長はまず机の配置の変更を提案した。生徒全員が黒板を向いていては互いの顔が見えず、話し合いは盛り上がらない。そこで机をコの字型に置き(写真1)、生徒を向き合わせて対話を引き出そうとした。同時に、グループ学習の積極的な取り入れを呼びかけた。
  だが、こうした改革案に対し、当初は「なぜ指導法を変える必要があるのか」といった反論も少なくなかった。そこで、齋藤校長は授業改革の必要性を説くために、教師全員で「学びとは何か」を考え直すことにした。教師に「どんな生徒に育ってほしいと思って授業を行っているか」「『学んだ』とあなた自身が感じられるのはどんなときか」といったアンケートを取り、話し合ったのだ。すると、「きちんと自己主張できる生徒を育てたい」「他者を思いやる生徒を育てたい」など、まさに協同的な学びを通じて育つ生徒像を思い描く教師が多かった。「授業の方法論ではなく、育てたい生徒像から議論することで、コンセンサスが生まれたのです」(齋藤校長)

写真
写真1 コの字型の配置によって生徒に一体感が生まれる。どのようなコの字型にするかは教師に任されており、中には教壇を取り外して教師と生徒の距離を近くする教師もいる

   PAGE 7/21 前ページ 次ページ