特集 コミュニケーションが生まれる授業づくり

VIEW21[中学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
   PAGE 10/21 前ページ 次ページ

挙手をさせないことで生徒を授業に参加させる

 こうした改革は、授業にはどのように反映されているのだろうか。荒川先生が教える1年生の社会科の授業を見学させていただいた。この日の単元は「地図の作り方」。メルカトル図法やモルワイデ図法といったさまざまな地図の図法とその特徴を理解させるのが狙いだ。
  各グループに地球儀を渡した荒川先生は、「地球儀を平面図にしたらどうなるか、話し合って描いてみて」と、模造紙を配った。教室に生徒たちの声が響く。地図帳を広げて話し合ったり、地球儀をくるくると回して意見を述べ合ったり、助言を求めて隣のグループを訪れる生徒もいる。その間、荒川先生は机の間を回って、考えあぐねるグループにはアドバイスを与える。
  だが、グループの考えはなかなかまとまらない。そこで荒川先生は、「地球儀の表面をよく見て」「丸いものを平らにするとどうなる?」などとヒントを与えて、更に話し合いを促す。
  ある程度話し合いが進んだところで、グループの代表者が黒板の前で意見を発表する。その合間に、荒川先生は次々と生徒を指し、それぞれの案に対する意見を述べさせた。その際、挙手はさせない。常に「自分が指されるかもしれない」という緊張感を持たせるためだ。更に、生徒の発言にはすぐに答えを出さずに、「Aさんはこう言っているけれど、Bくんはどう思う?」などと合いの手を入れ、クラス全体で議論している空気をつくり出す(図1)。

▼図1 地図の作り方に関する議論の1例

以下のような資料を生徒に示し、「対話」を軸にした議論を展開

生徒A 「地球儀を平面にするとすき間ができるので、そこを埋めればいいと思う」
教師 「埋めるにはどうしたらいい?」
生徒A 「ビヨーンと伸ばして、すき間ができているところをくっつける」
教師 「なるほど。そうすると平面になるね。じゃあ、A君の地図にはどんないいところがあるだろう? Bさん、ちょっと考えを言ってみて」
生徒B 「だいたい形が正しくなる」
生徒C 「形が正確」
教師 「そうだね。A君の地図はおおよその形が正確だね。でも、ある欠点もあるんだ。A君がビヨーンと伸ばすって言ったところがヒント」
生徒C 「伸ばしたところがゆがむ」
生徒D 「上の方と下の方が広くなる」
教師 「上と下ってどういうこと?」
生徒D 「北と南」
教師 「そうそう。A君の地図だと、面積は正確にならないんだ。グリーンランドとオーストラリアを比べてごらん」

 

以上のように、生徒の発話を軸に、答えをクラス全体で導き出すプロセスが重視されている。教師は、生徒の問題解決能力を引き出すための「きっかけづくり」を中心に授業を組み立てている

  こうして、生徒一人ひとりから意見を集め、話し合いに参加させた上で、具体的な図法の指導に入っていく。従来の授業であれば、教壇の上で地図を広げて、「これがメルカトル図法です」といった一方的な説明で終わっていたかもしれない。それに対し、対話を中心とした授業では、自分の意見を表現し、それに対する異論や反論を受け入れ、生徒が自らの考えを修正するという過程がある。そのため最終的な答えを「自分で考え出した」という思いで受け入れられるのである。
  対話重視の授業は生徒にも好評だ。05年度末に行ったアンケートでは「グループ学習を取り入れた対話のある授業をどう思うか」という設問に対し、9割以上の生徒が「良い」と回答。その理由には、教師の狙っていることがことごとく反映されており、学習意欲も増していることがわかった(図2)。
  更に、齋藤校長が教師の変化を振り返る。
  「最初に変化したのは生徒でした。初めは教え方を変えることに消極的だった教師も、変化を目の当たりにして驚き、次第に本気で取り組むようになりました」

▼図2 授業に関するアンケート調査結果
●グループ学習を取り入れた対話のある授業に対してどう思いますか
良い(158人)
良くない(15人)
どちらとも言えない(1人)
<良い理由>
わからないところを友だちに聞いたりして、わかるようになってきたこと。
1人で考えるより、みんなで考えたり教え合ったりした方が、わかりやすいし覚えやすかった
先生の話を聞くより、自分で調べた方が覚えているから。
まわりの人と話し、その人の良いところを自分に取り入れられるところ。
全員の前では言えなかった自分の意見が言えたりするから。
自分とはまた違う意見が出てくるから。
人の意見が聞けて、自分の意見とは違うことを思っているのがわかってよい。
<良くない理由>
話し合いが終わるとおしゃべりしてしまう人がいる。
良い班は良いと思うが、静かで何も言わない班はつまらないと思う。

授業の進度が遅れるから。

 

●あなたが授業の中で「対話している場面」とはどのような場面ですか
男女関係なくグループでわからないところを聞いたり教え合ったりするとき。
自分だけでは答えられない問題が出されたとき。
いろいろな問題の解き方を出し合ったりするとき。
授業中の質問に対してみんなで答えるところ。
わからないことを聞いたときに、それぞれがそれぞれの意見を言ったとき。
賛成と反対でいろいろと意見を述べているとき。

   PAGE 10/21 前ページ 次ページ