▲大阪教育大助教授
田中博之
Tanaka Hiroyuki
1960年生まれ。大阪大人間科学部助手、大阪教育大専任講師を経て現職。専門は教育工学、教育方法学
PAGE 6/14
多様な学力調査で学力の裾野を広げる
地方自治体が独自に学力調査を実施するメリットは何か。
また、学力調査を学力向上の取り組みに効果的に結び付けるには、
どのような点に留意すればよいのか。
学力調査に詳しい大阪教育大助教授の田中博之先生に お話をうかがった。
大阪教育大助教授
田中博之
I 地方自治体が実施する学力調査のメリット
自治体による学力調査で「全国的な学力調査」を補完
文部科学省による「全国的な学力調査」の導入は、教育現場にどのような影響をもたらすのか。大阪教育大助教授の田中博之先生がまず指摘するのは、「
データに基づく授業改善
」という考え方が現場に普及するという点だ。
「2007年度から導入される全国的な学力調査は、抽出ではなく、対象学年のすべての子どもが対象の悉皆(しっかい)調査です。全国や都道府県の平均と比べることで、どの学校でも、学校やクラス、子ども一人ひとりの強みや弱みがはっきりとわかります。そのデータは授業改善の指針となり、教師にとっては大きな刺激にもなるでしょう。これを機に、授業改善をデータに基づいて進めるという意識が、教師の間に芽生えることを期待しています」
更に、全国的な学力調査でカバーしきれない範囲は、自治体による独自の学力調査で「補完」するのが理想的だと田中先生は続ける。
「
地方自治体による学力調査のメリットは三つあります。(1)全国学力調査の対象にならない学年や教科の実態を把握できること、(2)自治体が独自に力を入れた取り組みの成果を重点的に測れること、(3)基礎・基本だけでなく、例えば『PISA型学力』と呼ばれる応用的な学力も幅広く調査できること、です。
全国的な学力調査の結果と併せて実施すれば、学力向上により効果的に活用できるでしょう」
以下、これら三つのメリットを説明する。
(1)実施学年・教科を広げる
全国的な学力調査は、小6生および中3生を対象としている。田中先生は、自治体による学力調査では、小学生は小3生以上、中学生はすべての学年を対象とすることで、年次を追った学力向上の取り組みが可能になると話す。同様に対象教科も、国語と算数・数学に加え、理科や社会、英語も含めることで、より効果的な調査になるという。
「できるだけ多くの学年や教科の実態を把握することで、授業改善のアイデアが出しやすくなります。また、学力向上の取り組みは、一部の教師によるものではなく、学校全体が一丸になることで高い効果を発揮します。その意味でも、なるべく多くの教師が主体的にかかわれるような調査を実施すべきです」
(2)自治体独自の教育施策の検証
教科を増やすだけではなく、出題内容でも全国的な学力調査を補完すれば、より有意義な調査になる。田中先生はこう話す。
「例えば、東京都足立区の『人間力の育成につながる学力向上』の取り組みのように、自治体が重点的に取り組んでいるテーマがはっきりしていれば、それに合わせて調査内容をアレンジし、成果を測るとよいでしょう。独自の取り組みに対する到達度が明確になりますし、税金を投入している以上は、成果の測定と公表は市民への説明責任ともいえます。ただし、調査内容のアレンジは、全国平均と比較できる範囲で行うのがよいと思います」
(3)応用的な学力の測定
近年、課題として浮上した、いわゆるPISA型学力の実態が測れるのも、自治体による学力調査の大きなメリットだ。
「文科省による調査でも、基礎・基本の『知識』と、それらを『活用』する力を測定するとしています。『活用』に関する問題については、記述問題の導入も予定されているようですが、全国規模の調査では限定的なものにならざるをえません。PISA型学力の向上が早急に求められている現在、自治体による学力調査では、そうした応用的な学力をより広くカバーし、実態を正確に把握すべきだと考えています」
PAGE 6/14