教育現場の挑戦 求められるキャリア教育の充実

VIEW21[中学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
   PAGE 4/6 前ページ 次ページ

既存の体験学習を大幅に見直しキャリア教育の柱に

 瑞穂中学校では取り組みの柱を三つの体験学習とし、3年間全体の位置づけを明確にした(図2)。その内容は、既に「総合的な学習の時間(以下、総合学習)」で行っていたものを大幅に見直したもので、次のように整理した。

 

図2

 

(1)職場見学学習(1年生)
  生徒が地元の事業所を訪ね、働く人たちにインタビューをする活動。夏休みに半日~1日かけて行う。1年生の中心的な取り組みであると共に、2年生の「職場体験学習」の準備という位置づけも担っている。06年度の1年生の場合、約40の事業所に、各3~4人が訪れた。
  訪問先は保護者や学校が探すが、訪問に際しての打ち合わせは生徒自身が行う。訪問後は、各自でインタビューの内容と感想を冊子にまとめ、訪問先に礼状と共に送付する。また、学年全体で発表会を開き、生徒同士で体験を共有する。

 

(2)職場体験学習(2年生)
  保護者や商工会などを通じて依頼した事業所で、夏休みに5日間の就労体験をする。体験後は「職場体験レポート」(図3)を作成し、訪問先でお世話になった人や同事業の指定校の小学生を招いて発表会を開く。
  この活動は、以前は1日だけだったが、今回の指定を受けて5日間に拡大した。瑞穂中学校は、2年生のときに長期間の職場体験を行う効果を二つ考えている。
  「一つは、勤労観から職業観への涵養という節目の時期に、勤労観をしっかりと確立させ、職業観の基礎を築くこと。二つめは、14歳という、ともすれば自己肯定感が低下する時期に、仕事を通して自分が社会に役立つと感じることで、前向きな気持ちを育むことです」(重野先生)
  一方、田邉哲郎校長は「5日間」という期間の長さに意義を見いだしている。
  「勤労観を確立するには、生徒が将来の夢や希望を描くだけでなく、働く大変さも実感することが重要です。働くのが1日だけでは、生徒はただ楽しいと思うだけで、働く大変さや苦労まで実感できずにいました。5日間連続して働くという体験が、どうしても必要だったのです
  しかし、5日間の就労体験を実現させるのは、受け入れ先や校内の意見調整の問題もあり、簡単ではなかった。そこで、初年度の04年度はまず3日間で実施。生徒や保護者へのアンケート結果から成果が上がっていることを説得材料として、05年度から5日間に拡大した。
  その結果、生徒のレポートには、働く大変さや、保護者への感謝の言葉が見られるようになった(図3)。5日間の体験学習で「社会貢献をする」「人の役に立つ」経験を積むことが、勤労観の育成に非常に効果的であることを教師たちは確信するようになった。

 

(3)高校生と語る会・高校訪問(3年生)
  3年生は1、2年生のときの体験を踏まえて進路選択をする時期となるため、高校に関する体験活動を行っている。
  「高校生と語る会」では、夏休み前半に半日~1日をかけ、卒業生を招いて高校生活や受験校決定までの過程などについて聞く。夏休み後半には高校のオープンスクールや体験入学などを利用し、各自がそれぞれの高校を訪問する。
  一方で、キャリア教育と進学指導を無理に結び付けていないのも瑞穂中学校の特徴だ。
  「職業観が早く確立した生徒であれば、なりたい職業を決めた上で、それにつながる高校を選ぶ意義もあるでしょう。しかし、多くの中学生は働く意味を十分に捉えられなくて当然ですし、個人差もあります。むしろ中学校段階で生徒に身につけてほしいのは、『自分は社会にどう貢献できるのか』と考える姿勢や『人の役に立ちたい』といった意欲です。こうした生きていく上での『基礎体力』がしっかり身についていれば、今後の人生を自ら切り開いていけるはずです。本校のキャリア教育はあくまでも将来へとつながる過程の一つなのです」(重野先生)
  その言葉からは、従来の「出口指導」から脱却しようとすると共に、12年間の流れの中で「中学段階は勤労観から職業観への橋渡しの時期」という考えが徹底していることがうかがえた。

▼図3 2学年の職業体験レポート例図3
「体験してみてわかったこと」「職場体験を通して、働いている保護者の方に対して、どんなことを感じたか」という欄に、生徒たちの勤労観の成長が見られる

   PAGE 4/6 前ページ 次ページ