宮郷中学校で教科指導のIT活用が軌道に乗ったきっかけは、2003年度に文部科学省の「学力向上フロンティア校」に指定されたことだった。IT環境が整備され、学習目標の達成を助ける効果的な道具として、ITを見直そうとする意識が教師の間で高まっていった、と木村雅治校長は語る。
「フロンティア校としてのテーマは『自ら課題を見つけ、学び、考えることのできる生徒の育成』です。課題解決的な学習におけるきめ細かな指導には、ITが有効な手段になると判断し、積極的に活用することにしました」
情報教育の目標を「必要な情報を自ら吟味判断し活用でき」「豊かな人間性を備え」「他者の人権も考えて情報を利用する」として、年間計画を立てた。
「以前は中学校でもローマ字入力の仕方の初歩から教えていましたが、今は小学校の段階で8~9割の子どもがキーボードを使えるようになっています。そのため、中学校では基礎技術を指導する必要がないので、もう一段階上の活用に重点を置いた指導の年間計画を作成しました」(情報教育・技術家庭担当の星野治道先生)
1年生のころはキーボードの入力方法、インターネットの使用法、表やグラフの作成といった基礎技術と操作方法を指導するが、時間数は少ない。情報の検索や保存、発信の手法といった「情報をいかに扱うか」というスキルの指導により力点を置いている。
また、2年生には表計算ソフトやワープロソフト、写真加工ソフトの使い方を指導する。そして、3年生には、これまで学んだ技術を応用する方法、情報の活用・発信の仕方などを学ばせる。学習内容に応じて、各学年で著作権やネチケットといった情報モラルも指導する。
指導方法にも、宮郷中学校ならではの工夫がある。「自ら学ぶ」という学校目標を踏まえ、生徒が独自に学習を進められるよう、課題とマニュアルに工夫を凝らしたのだ。
まず、三つのレベルの課題を用意し、事前に共有フォルダに入れる。生徒が自分のペースで学習を進めることができるよう、各課題に沿ったマニュアルを用意する。星野先生は、マニュアル作成に当たって、以下の点に配慮した。
(1)画像を中心としたマニュアルにする
(2)ソフトウエアを利用して生徒が自分で進められる
(3)多くても6ページに収める
生徒が1人で学習を進められるように工夫されており、意欲を持たせやすい。また、家庭にパソコンがない生徒でも、自宅でマニュアルを読むことで復習ができるといった利点がある。
マニュアルの作成は、星野先生とITサポーターが連携して進めた。
「ITサポーターから他校の事例を紹介してもらったり、新しいアイデアを出してもらったりして、一人よがりの内容にならないように注意しました」(星野先生)
一般的に、パソコン教室での授業は、生徒が操作について質問があるたびに、教師が休む間もなく机の間を行き来する、という風景が当たり前だ。
しかし、今回見学した星野先生の授業では、生徒の挙手の回数は格段に少なかった。生徒は、マニュアルを見ながら1人でどんどん課題を進められる。マニュアルによって「自分のペースで学べる授業」が確立したことで、生徒のスキルが向上しただけでなく、結果として教師の負担も減ったという。
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