▲小杉礼子
Kosugi Reiko こすぎ・れいこ◎独立行政法人「労働政策研究・研修機構」統括研究員。専門は教育社会学、進路指導論。主な編著書は『フリーターという生き方』(勁草書房)、『フリーターとニート』(編/勁草書房)、『キャリア教育と就業支援』(共編/勁草書房)など。
文部科学省の「キャリア・スタート・ウィーク」の本格実施に伴い、中学校現場ではキャリア教育への関心が高まっている。また、ニートやフリーター問題を受けて、政財界からもキャリア教育への期待感が高まっている。中学校でのキャリア教育を通して、生徒たちにどのようなメッセージを伝えていけば良いのか。有識者の提言や学校の取り組み事例から考える。
「人生をどう切りひらいていくのか」「働くとは何か」を考えさせる機会として、キャリア教育が果たす役割は大きい。進路指導や若者のキャリア形成に詳しい、労働政策研究・研修機構の小杉礼子統括研究員に、中学校のキャリア教育の在り方について聞いた。
キャリア教育は本来、大人になるために必要なプロセスだと思います。実際、多くの国々では義務教育修了までにキャリア教育が行われています。それではなぜ、日本では重視されてこなかったのでしょうか。 一つは、学生時代にそこまでの力をつけなくても大丈夫な社会システムだったからです。従来の日本では、就職しさえすれば、あとは企業が定年までの雇用を前提に長い目で育ててくれました。学校は、進学・就職といった、いわゆる出口指導をしていればよかったのです。 1980年代までは、日本企業の長期的な雇用慣行や人材育成が、世界的に優位なものとされていました。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の時代です。この社会システムが変化する中で、改めてキャリア教育の意義が認識されるようになったと考えています。 もう一つは、子どもの育つ環境が大きく変わり、以前なら自然に身についていた社会人としての基礎的な力が身につきにくくなった点が挙げられます。典型的なのがコミュニケーション能力です。家庭や地域に教育力があったころは、あえて言わなくても子どもはコミュニケーション能力を自然に身につけていました。今は意図的な仕組みを取り入れなければ育たなくなっています。同様に、家庭や社会で多様な経験をする中で、職業観を培う機会も少なくなっています。 これらの変化を受けて、学校のキャリア教育への期待が高まっているのです。