▲国立教育政策研究所 初等中等教育研究部長 工藤文三
*本文中のプロフィールは取材時(08年3月)のものです
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【研究者の視点】
指導の鍵は「活用」「探究」を
授業にどう落とし込めるか
国立教育政策研究所 初等中等教育研究部長 工藤文三
授業時数を増やし「確かな学力」の実質化を図る
今回の学習指導要領の改訂は、教育基本法等の改正を受けて行われるものです。法律の中で学力を具体的に規定したことによって、これまで抽象的だった学力観が明確になり、校内や教師間で教育目標を共有しやすくなったといえるでしょう。
改訂の内容を見ると、指導内容の充実が具体的に示され、「確かな学力」を育成しようとする姿勢が明確に打ち出されています。文部科学省は、2002年に発表した「学びのすすめ」において「確かな学力」を打ち出し、「学力向上フロンティア事業」などによって学力向上の施策を行ってきました。新学習指導要領は、この「確かな学力」の実質化を図ったと捉えることができます。
「確かな学力」を育むための工夫は、さまざまな視点から見て取れます。授業時数は増えていますが、これは指導内容の増加への対応と共に、つまずきやすい学習内容を繰り返して知識を定着させたり、学習した内容を実際に生かす学習機会をつくったりするための時間などに充てられます。07年度に実施された「全国学力・学習状況調査」の結果を見てもわかる通り、子どもたちの知識はおおむね満足できる状況にあります。それらの知識を実社会・実生活で生かせる「創造的知性」に昇華させてほしいというわけです。
1コマごとの指導構成を習得・活用・探究の観点で再考
具体的にどのような指導が求められているのかといえば、「習得」「活用」「探究」がキーワードとして挙げられます。特に知識の習得を「活用」「探究」につなげる活動を、授業にどのように具体化するかが鍵となります。
今、行っている授業にも、先生方は「活用」「探究」の場面を盛り込んでいるはずです。新しいことをゼロから構築しようとするのではなく、まずは今のご自分の授業を見直してみてください。その中に、「活用」「探究」に当たる活動があるはずです。それらを掘り起こして工夫を施し、発展させることが、指導の改善につながるのです。
改善のポイントは、単元単位ではなく、1コマの授業の中での指導をどう構成するかにあると思います。能力的には「習得↓活用↓探究」という図式で示すことができても、この三つの内容がはっきり分かれるわけではありません。今日は「習得」の日、明日は「活用」というように分けるのは難しいでしょう。三つの活動のうち、どの指導が合っているのかは、教科や単元の特性によって異なります。例えば、理科のエネルギー保存の法則は基礎・基本となるので、法則をきちんと説明してから実社会での活用場面を話して気づきを促すという方法もありますし、最初に「熱エネルギーが運動エネルギーに変換されている」という生活での活用場面から入り、法則を説明して納得度を高めるという方法もあるでしょう。
教材についても、習得を目的としたものか、活用力をつけるためのものかを意識して作成し、授業のどの場面で取り組ませれば効果的かを考えることが重要です。新学習指導要領を受けた教科書には、実生活での活用を問うような問題や、「全国学力・学習状況調査」のB問題(活用)を意識した内容などが、今以上に盛り込まれると予想されます。これらをうまく活用するとよいでしょう。
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