▲メルヴィ・バレ◎教科書編纂者・元ヘルシンキ大学附属小学校教師。
教科書制作を通して海外の先進的なメソッドをフィンランドに導入すると共に、指導要領策定委員や広域教育委員などを歴任。現在のフィンランドの教育方法の原型を作った。現場を退いた今も各地で精力的に教員研修を実施。同国の80%の教師が使用するヴェルネル・ソーデルストローム(WSOY)社の初等国語教科書の責任監修者として活躍中。
2003、2006年のPISAで、世界トップクラスの成績を上げたフィンランド。 特に「読解」の指導法は各国の注目を集める。 同国の学習指導要領執筆者で、国語の教科書執筆も手がける元ヘルシンキ大学附属小学校教師のメルヴィ・バレ氏に、フィンランドの教育についてうかがった。
私たちは「読解」の要点は次の三つだと考えています。一つめは、すべての学習の基礎となるように、きちんとテキストを読みこなす力をつけること。二つめは、批判的に物事を判断する力を身につけること。インターネット上の情報の読み取りなどがこれに当たります。そして、三つめが問題解決能力を身につけることです。 この三つの力を育てるために、まず行うのは「事実」と「意見」の区別を子どもに教えることです。批判的な読みをするにしても、問題解決をするにしても、ここが出発点になりますし、子どもが未来の社会で生きていく上でも一番重要な力になると思います。テレビ、新聞、雑誌、インターネット――溢れんばかりの情報の中から、何が真実なのかを見極められなければ、今後の社会では通用しません。フィンランドでは、小学校段階からこの点を意識して教育を行っています。 もう一つ大切にしているのは、生活体験や現実感覚に基づいてものを考える力を養うことです。例えば、算数の授業で、子どもに家族の身長を求める問題をつくらせるとします。その際、間違っても、お父さんの身長が15センチになるような作問をしてはいけません(笑)。計算上はあり得ても、あまりにも現実的ではない答えが出ては、これまで見聞きしたこと、考えたことを踏まえながら、答えの正しさを考え直す、という作業をさせることができません。 私たちがすべきことは、機械的に答えを出す術を教えることではなく、一度出した答えに対しても「なぜそう考えたのか」「その答えは現実的なのか」と、自らに問いかける力を育てることです。PISAの問題はこうした考え方に似ているので、日頃からトレーニングを積んだフィンランドの子どもには取り組みやすかったのでしょう。