私たちがどのような授業をしているのかを、具体的に紹介しましょう。おとぎ話を題材にした小学校低学年向けの授業を例に挙げます。
私たちはいきなり本文を読み始めるということはしません。タイトルと表紙の挿絵を子どもに見せ、日本語の「むかし、むかし…」に相当するフレーズまで読んだところでいったん授業を止めます。そして、「さあ、これから始まる物語は本当のことかな? それともおとぎ話かな?」と子どもに問いかけます。
多くの子どもは、すぐに「おとぎ話だ」と気がつきますが、肝心なのは子どもがなぜそう考えたのかを問うことです。「いろいろなお話を聞いたことがあるけれど、おとぎ話は『むかし、むかし…』で始まったよ」と答える子どもがいれば、経験を基にした推論ができているということになります。
更に話を読み進め、登場人物が店に入るシーンが出てきたとします。ここでも本文の読解に入る前に、「みんなは、どんな店に、いつ、だれと、どうやって、何をしに行ったことがあるかな?」と、いったん子どもの生活体験を問う作業を入れます。こうした作業を一度入れることで、その後、本文の読解を進める際に、「ここまではこういう話だった。自分の経験に照らすと、だいたいこういうときはこうなった。だからこの物語もこうなるのではないか」という具合に、本文の内容と自分の体験とを結び付けて推論できます。
もちろん、物語の続きは常に予想通りに進むとは限らないですし、ときとしてあまりにも現実離れしたストーリーを予想する子どももいます。そうしたときにも「なぜそんなことを言うの!」と叱るのではなく「どうしてそうなると考えたの?」と問いかけます。 |