特別取材 フィンランドメソッド第一人者に聞く

VIEW21[中学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
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「メソッド・ガイド」で一定の指導を確保する

 しかし、全くの新人教師にとって、こうした授業をゼロから組み立てるのは容易なことではありません。そこで私たちの国では、ベテラン教師の経験知を、合理的な「メソッド(方式)」にすることに力を入れています。
 例えば、先ほど紹介したような、子どもへの発問の仕方や授業の進め方は、教科書に付属している指導書に非常に詳しく書かれています。子どもに発問するタイミングや内容、子どもの答えに応じた返答のパターン、更には宿題の出し方や成績のつけ方に至るまで、単元ごとにきめ細かくフォローしています。
 更に、教科書には、そのままコピーして使えるプリント教材をまとめたワークブック、CD―ROMが一つのパッケージとしてついてきます。ワークブックの巻頭には習熟度を測るためのテストがついており、そのあとに単元別に習熟度に応じた課題プリントが続く構成になっています。この流れに従っていくことで、テスト→習熟度によるグループ分け→子どもに与える課題の提示まで、どの教師でもこなすことができます。

図1 教科書、指導書、ワークブック
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メルヴィ・バレ先生が執筆したWSOY社、小学2年生国語の教科書。左から教科書、ワークブック、教師用の指導書。このほか授業で使う素材を集めたCD-ROMなどがセットとなって、学校で活用される

 一方、教科指導やクラス運営のごく基本的な方法については、メソッド・ガイドと呼ばれる冊子を参照することになっています。メソッド・ガイドとは現場の教師の知見を集めたもので、国家教育委員会が基本メソッドを示したガイドと、それに従って各教科書会社が自分のところの教科書に合わせてメソッドを細かく具体的に説明したガイドの2段階があります。そこには、「子どもが騒いでいるときに落ち着かせるにはどうすればよいか」「子どもがおかしな答えを言ったときには『違います』と言わずに『なぜ』と聞き返す」といったメソッドが蓄積されています。
 あまり知られていないかもしれませんが、フィンランドの学習指導要領は非常に簡潔なもので、極端にいえば、ただ教育目標が列記されているに過ぎません。また、教科書検定もありませんから、教師はどの会社の教科書を使おうと自由です。そうした中で、一定の指導力を確保するためにも、こうしたメソッドは欠かせないのです。


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