10代のための学び考
VIEW21[中学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
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民法の奥深さに惹かれて学者を志す

 高校卒業後は、父が弁護士だったこともあり、東京大法学部に進み、明治以降最も著名な民法学者といわれる我妻榮(わがつまさかえ)先生に学びました。民法は全1044条あり、学問としての歴史も古く、その起源はローマ法にまで遡ります。ところが、我妻先生は講義で「ここから先は今後の問題です」とよくおっしゃいました。「我妻先生でも、まだわからないことがあるのか」――未知なるものへの興味・関心が強かった私は「民法はなんて奥が深いのだろう」と感じ、民法学者を志すようになったのです。
 学びへの意欲はありましたが、大学時代は我妻先生の講義に圧倒され、先生の著書である『民法講義』のような本は書けないと思っていました。また、法学は自然科学のような飛躍的な発見はなく、アイデアが浮かんでもだれかが既に発表していることがよくあります。ですから、我妻先生の講義を聞いて疑問を抱いていても、しっかり論証できる根拠にたどりつくまでは通説に従っていました。
 ただ、一度抱いた疑問はいつも頭の片隅に持ち続けるようにしていました。その一つが、日本の民法典はドイツ民法典ではなくフランス民法典の影響を受けているのではないか、という疑問でした。
 当時、日本民法典のモデルはドイツ民法典という考えが、法律家全般の通説でした。弁護士の父にも「法律を学ぶなら、ドイツ語とドイツ法を勉強せよ」と言われました。しかし、私は学生時代にフランス法学に触れ、「日本民法には、フランス的な緩やかさがある。フランス法の影響を受けているのではないか」と考えるようになったのです。ドイツ全盛時代でしたが、私はフランスに留学。日本では部分的にしか紹介されていなかったフランス民法とフランス法学を、それを生み出した背景を考えつつ学びました。そして、日本民法典の中にはドイツ民法典に存在しない制度が存在するなど、フランス民法典に多くを負うとの結論に至ったのです。学生時代に抱いた疑問を持ち続け、粘り強く考え、調べたから得られた成果でした。


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