特集2-新学習指導要領が示すこれからの理数教育
工藤文三

▲国立教育政策研究所 初等中等教育研究部長 工藤文三

VIEW21[中学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
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【研究者の視点】

教科の原点を見つめ直して
日常生活の視点から教材を工夫する


国立教育政策研究所 初等中等教育研究部長 工藤文三

新たな学力観を見据えて 学習指導の見直しを図る

 今後の理数教育には、基礎的な知識・技能の習得にとどまらず、思考力、判断力や表現力の育成が求められます。これまでも、これらの力を育成することは重視されてきましたが、PISAなどの調査結果を見る限り、知識・技能を活用する力や、思考、判断、表現にかかわる力を身に付けることが一層必要とされるものと思われます。
 このような状況の背景には、教師が日々の指導の中で、内容を次々に扱うことに追われて、生徒にどのような力が必要なのか、どのような力が育っているのかという点への配慮が、必ずしも十分ではなかったという事情があるのではないでしょうか。
 指導の改善を図るには、教師が基本に立ち返り、教科の本質について改めて考える必要があります。「数学・理科という教科をなぜ勉強させるべきなのか」という視点から、これまでの授業を振り返ってみてください。
 高校入試の問題自体も、次第に論理的思考力などを問うものへと変わりつつあります。その流れに対応するためにも、今後はより指導の改善が求められているといえるでしょう。
 新学習指導要領では、数学と理科のいずれにおいても、日常生活や社会との関連を意識した指導が重視されています。これを授業で具現化する際には、教科の本質を捉え直すことが必要となります。その作業は、教師にとって、学習内容が生活や社会の中でどのように生かされているのかを、再認識することにもつながるでしょう。
 例えば、近年の携帯電話の料金体系は非常に複雑ですが、数学的な関数の考え方やグラフなどの技法を用いることにより、わかりやすく理解することができます。このような事例は、毎日の生活の中に数多く存在します。教科書だけを見て指導するのではなく、教師自身がものの見方を柔軟にし、社会に目を向けて、目の前にいる生徒にとって適切な素材を探し出してください。その際には、なるべく身近なものから探すなど、生徒の興味・関心を意識する視点を忘れないことが大切です。

視野を広げ さまざまな研修機会を活用する

 これまでの指導方法を大きく変えることに、不安を感じている先生もいるでしょう。「どこから手を付ければよいのかわからない」と、戸惑っている先生もいることと思います。特に、前回学習指導要領が改訂された1998年度以降に教師になった方にとっては、初めて教える内容も少なくありません。
 指導の改善に向けて、ベテラン教師の知恵を借りたり、教育センターや科学教育の関連機関の資料等を利用したりするのは一つのよい方法です。また、書店には、教科学習から少し離れて、数学や理科の面白さを伝える書籍がたくさん並んでいます。そうした書籍の中から教師自身が興味を持ったものを選んで授業に応用すれば、教科に対する生徒の興味を喚起することができるかもしれません。
 これまでの指導をいきなりすべて変えようとするのではなく、まずは自分の得意な単元から改善していく気持ちで始めてみてはどうでしょう。日々の業務で忙しいとは思いますが、学習指導要領の改訂をよい機会と捉えて、教師自身が学び直す気持ちで、教科指導の改善を進めてください。

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