35年以上の研究生活を通して、私はエバーメクチンをはじめとする微生物由来の有用な天然有機化合物を20種類発見しました。こうした成果を上げられた最大の理由は、行動力や忍耐力だけでなく、「独自のことをやると失敗する場合もあるが、人を超えるチャンスが生まれる」と考え、微生物の作る新しい化合物を見つけ出す方法を独自に確立したことにあると思います。
アイデアの源になったのは、山梨大の学生時代に学んださまざまな分野の実験や知識でした。当時の大学は1年次から研究室に自由に出入りし、好きな実験ができるようになっていました。私は化学を専攻していましたが、有機化学、無機化学、物理化学など幅広く学びました。ほかにも、興味のあった生物学、地学、人体生理学などの講義を受けました。今思えば、一つの学問領域にとどまらず、好奇心のおもむくままに学んだことが、私の研究者としての基礎を築いたのでしょう。事実、有機化合物の構造決定に、早期に鉱物を解析するのに使うX線結晶構造解析を用いることを何のためらいもなく行えたのも、鉱物学を学んだ経験を生かしたものでした。
学問というのは、学者によって発見されるものはごくわずかで、むしろ、人々が日々の生活の中で見つけた小さな疑問や発見が積み重なってできたものだと、私は思います。そして、疑問や発見は、大学で机に向かって論文を書くことだけから生まれるわけではありません。毎日の生活や普段の勉強にヒントがあることを是非知っていてほしいと思います。何か面白い現象を体験したら、自分なりに考え、調べ、わからなかったら人に聞いてみる、実験する、そして理解する。その過程こそが学問を形づくっていくのです。
|