では、学校外の学習時間はどう推移しているのか。図3は、2年生を対象に5年おきに実施している調査(『学習基本調査』)を基に、家庭学習と学習塾の学習を含めた学校外の学習時間の変化を示している。
ここからは、1990年代に学習離れが進んだことが読み取れる。「0分」と「30分」の合計の比率は、1990年18・8%↓1996年22・5%↓2001年30・7%と推移した。この変化に連動して、「2時間台」「3時間以上」といった長時間の学習をする生徒が減少したことがわかる。 1990年代は、子どもの「ゆとり」を実現することが大きな政策目標であった。例えば、1996年の中央教育審議会答申「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」では、過度の受験競争や知識を詰め込む学習が「生きる力」の成長を阻んでおり、子どもに「ゆとり」が必要だと主張されている。 こうした論調は、1990年代の教育改革を支える理論として機能してきた。1990年以後の主な教育政策を概観すると、「新しい学力観」を提唱した学習指導要領の施行(1993年)、「生活科」の実施、学校週五日制の部分実施(1992年、完全実施は2002年)、教育内容の精選や「総合的な学習の時間」の創設を行った学習指導要領の改訂(1998年)などが挙げられる。 これらには、知識偏重の是正という思いが込められていたが、同時に勉強のプレッシャーを取り除くことにもつながった。この間、バブル景気崩壊後の長期不況によって、学歴を得て一流といわれる企業に就職することが必ずしも幸せにつながらない、という考えが社会に広がった。 こうした環境の変化は、中学生の意識にも色濃く表れている。図4には学習の悩みを示した。1990年から2001年にかけて、「どうしてこんなことを勉強しなければいけないのかと思う」「世の中に出てから、もっと役に立ちそうな勉強がしたい」といった、学習の目的がわからない悩みが増えた。これに対して、「先生は成績にこだわりすぎる」は減少している。学習目的が見えにくくなったこと、周囲からの圧力が弱くなったことによって、1990年代は学習離れが進んだのではないか。
2000年代に入り、「学習回帰」とも呼べる現象が見られる。図3を見ると、2001年から2006年にかけて「0分」「30分」という回答が減り、「2時間台」以上の回答が増えた。図4からは、学習目的が見えないという悩みが減少していることがわかる。 このような変化の要因はいくつか考えられるが、その一つには、教師のさまざまな努力や工夫があるだろう。2000年代に入り、文部科学省は、学力低下を危惧する声に対応して、学校に学力を高めるための取り組みを強く促した。その結果、基礎・基本の徹底的な指導、キャリア教育や進路学習の充実、「朝の読書」のような授業以外の指導、放課後や土曜日の補習、家庭学習の支援など、多くの取り組みが学校で行われるようになっている。これらの成果が生徒の学習行動に表れた可能性を、見落としてはならない。
<出典>
モノグラフ・中学生の世界:一覧(1978~2004)
第4回 学習基本調査・国内調査 中学生版
第4回 学習指導基本調査
第1回 子ども生活実態基本調査報告書