あらい・ひとし 教職歴20年。数学科担当。3学年担任、同主任。長野県内の公立中学校、信州大教育学部附属長野中学校を経て、2004年度から同校。
長野県長野市立柳町中学校教諭
新井 仁
「先生、娘が『数学の授業が面白い』って言うんですよ」 2学期末に行う保護者懇談会の終了後、1人の保護者が話しかけてきました。その言葉に、私は思わず涙がこぼれそうになりました。その生徒は決して数学が得意ではありませんでした。だからこそ、私の授業スタイルやそこに込めた思いが、生徒に着実に伝わっていると感じたのです。 担任を務める学級は、1年生のころから生徒指導上の課題が目立ちました。2年生1学期の始業式で担任が発表された時には「えっ、担任が変わるのか」と生徒がざわつきました。柳町中学校では慣例として進級に伴う学級編成替えがなく、担任も3年間代わらないからです。そのため、担任となった私に向けられたのは、生徒の疑心暗鬼の目でした。生徒と信頼関係を結ぶには何をすべきか。私は「この学級の生徒に魅力ある授業をする」ことに最も力を入れました。 授業は今日の課題を掲げることから始まります。「スギ花粉の飛散量を予測する」や「最も利益の出るコンサートチケットの価格を設定する」などの課題に、生徒は最初、「これは数学の授業?」といぶかしがりました。生徒の生活に密着した課題を出すのは、数学は単に公式を覚えるものではなく、毎日の生活に役立つと実感し、実際に使える力を生徒に身に付けてほしいからです。 スギ花粉の課題について、生徒と共に解決の糸口を探ります。「これらの表にはどんな特徴が見られるかな」「日照時間が長いと、次の年の花粉量が増えている」「そうだね。ほかの気象条件ではどうかな」。私が問いかけ、生徒が考え、また私が話す。既習のどの知識を使えば解決できるのかを考えさせようと、会話のキャッチボールを積み重ねます。 担任になってしばらくは、学級の反応は薄いものでした。でも、生活に役立つ内容を扱い、生徒が面白いと思う授業を続ければ、私の問いかけに応える生徒がだんだん増え、その様子を見てほかの生徒も加わってくるはず。私は、生徒の様子を見ながら素材を見つけて教材化し、生徒と共に課題をすえて、学級全員が取り組める授業にしようとしたのです。