記念特集 中学校教育のこれまでとこれから
VIEW21[中学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
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「数学って難しいけれど、面白い!」

 今では私なりの授業法が確立していますが、20代のころは試行錯誤の連続でした。特に新卒のころは、自分の中学時代を振り返り、「生徒もこれくらいできて当たり前」と思って授業を進めていました。自分ではわかりやすい授業をしているつもりでしたから、理解できない生徒にいら立ち「何でこんなことができないんだ」と怒ったこともあります。授業を聞かない生徒を問い詰めた末に、「だって、先生の授業がわからないんだもん」と言われたこともあります。生徒を見ずに授業をしているのは自分なのに、理解できないことを生徒のせいにしていたのです。今思い出すと恥ずかしい限りです。
 自分の授業がなぜわかってもらえないのか。悩んだときには、大学時代の恩師や数学教師の仲間に相談しました。数学教師の自主研究会にも所属し、勉強会に参加しました。生徒の把握、素材の選び方、板書法などを学び、授業で取り入れ、うまくいかなかったら別の方法を試し――を繰り返しました。もちろん、今も続けています。


 今の授業スタイルが形づくられてきたのは30代になってからです。「教材研究」とは「素材研究」だけを指すのではない。よい素材を用意するだけではなく、素材を生徒の実態に合わせて生かす方法を考えるのが教材研究だと気づいたのです。それからは、デジタルカメラを持ち歩き、教材になりそうなものを撮るなど、常に面白い素材はないかと探しています。
 そのころには、自分が理想とする授業が明確に描けるようになっていました。それは、「数学って難しいけれど、面白い」と生徒に言われる授業です。一つの学級には、数学が得意な生徒もいれば、苦手な生徒もいます。学力や関心に差があっても、学級全員が一つの教室で同じ授業を受け、かかわり合って学ぶ。それが、多様な子どもが学ぶ公立学校が目指すべき授業だと思うのです。


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