こうした指導方針をとった背景には、私の初任校が特別支援学校だったことが大きいと思います。その3年間の経験は、私の教師としての姿勢をつくるのに重要な意味がありました。
私は、採用を知らせる電話が自宅にかかってきた翌日、教育事務所に出向き、その足で赴任する特別支援学校に向かいました。先輩の先生方への挨拶も早々に教室に連れていかれ、「あそこに座っているのが、鈴木先生の受け持ちの子どもたちです。今から給食を食べさせてあげてください」と言われました。
私は、大学で特別支援教育について特別に勉強したわけではありません。何をどうすればよいのか、戸惑いの連続でした。とにかく先輩の先生方の姿を見て、話を聞いて、自分がここで何をすべきかを学んでいきました。
特別支援学校の子どもができるようになることは、それほど多くはありません。例えば、50mしか歩けなかった子どもが1年間かけて100m歩けるようになる、スプーンを使って食べられなかったのが自分ですくって食べられるようになる、といった具合です。そうした一つひとつの「できた」が、子どもにとっても保護者にとっても、大きな喜びであり、幸せなのです。
何かを指導するというよりも、目の前の子どもがどうすれば自分の力で生きていけるようになるのか。長い時間の流れの中でその小さな一つをつくることが、この場所で自分にできる唯一のことだと思いました。生徒が自分の力で変わるまで待てるようになったのは、この経験があったからかもしれません。
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