教える現場 育てる言葉

VIEW21[中学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
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欠点を具体的に伝える指導方法

 セリフを中心にした演技の指導方法にも、文学座独特の伝統がある。
 「研究所では、座学よりも実技を中心とした授業を行っています。また、指導する際にも、抽象的な論理を教えることはありません。あくまでも具体的に、例えば『腹から声を出せ』などと指導します。ただし、一つの型にはめこむために指導をするのではありません。ともかく自由にやらせてみて、直すべきところを指摘するだけ。これは、創設以来70余年間変わらない伝統です」(戌井所長)
 「演出家は、決して『こういう言い方をしろ』とはいいません。北村和夫さんがよく、『ともかくやってみる、言ってみる、動いてみる』とおっしゃっていましたが、積極的に恥をかけというのが文学座の伝統。恥をかくことを恐れずに、自分の考えたことを演出家にぶつけていくことが必要不可欠です」(鵜澤主事)
 実際の授業風景を覗いてみると、研修科の発表会の演目である『雨空』(久保田万太郎作)の稽古が行われていた。指導に当たる戌井所長は、和服を着た一組の男女の会話の場面で、男性役者のセリフに「もっとサラリと」「自然にいってごらん」と短い言葉で何度もやり直しをさせている。男性は、その都度少しずつ言い方を変えていく。直されなくなって、ようやく次のセリフへと進む。延々とその繰り返し。手取り足取りの指導とはほど遠く、一見、冷淡にさえ見える。
 戌井所長は「演技というのは演出家にいわれた通りのことをやればいいわけではありません。自分で考えることが必要です。何度同じことをいっても、セリフ回しを含め、場面に合った演技が永遠にできない研究生もいます。そうなるとダメなものはダメとしかいえませんね」と語る。
 ある研究生はいう。「厳しいとは思いません。役者を目指しているのは自分ですから、やり直しさせられてそれをクリアできなければ、自分は役者になれないんだと思うだけです。成長するには自分で歩くしかない」。
写真
研修科の発表会『雨空』の稽古風景

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