かつての佐賀市立金泉中学校は、いわゆる「荒れた学校」だった。生徒同士の暴力や教師の不祥事などが相次ぎ、学校は危機的な状況にあった。「2003年ごろが最も厳しい時期でした。教職員は皆、頑張っていましたが、成果はなかなか出ず、生徒も教職員も傷つき、そして地域からの信頼も失っていました」と、当時、教育事務所所長として同校にかかわっていた校長(当時)の佐藤範男先生は話す。
そうした状況を知っていた佐藤校長は、04年度に校長として着任した時、「元気あふれる学校づくり」を学校目標に掲げた。
「『みんなが一つになって元気な生徒を育てよう』と、教師だけでなく事務職員も含めて教職員全員に伝えました」
まず見直したのが、生徒指導の在り方だ。佐賀大の倉本哲男准教授の指導などを踏まえ、問題が起きてから対応する「対処的生徒指導」に終始せず、生徒一人ひとりに「出番」を与えて「役割」を果たさせ、その行動を「承認」することによって、生徒の責任感や自信を育て、良いところを伸ばしていく「開発的生徒指導」を行うようにした(図1)。
このような指導を取り入れたきっかけは、04年度に劇団を招いて行われた体験授業での出来事にあった。
この授業は、劇団員の指導の下で、生徒がオペラの一幕を演じるという内容だった。普段から問題行動の目立つ生徒も参加しており、その生徒は、開始直後は劇団員の言うことをほとんど聞かずにいたという。ところが、劇団員は、その生徒を事あるごとに褒めた。すると、かたくなだった生徒の顔は次第に和らぎ、「今のは良かったね」などと劇団員から声を掛けられることを喜ぶようになっていった。公演が終わり、劇団員を乗せたバスが校門を出ていく時には、生徒は涙を流しながら手を振っていたという。
「こうした生徒の姿を見て、私が何より感じたのは、子どもが『承認』されることに飢えていること、そして、承認の機会を与えてこなかった、これまでの生徒指導の在り方への反省でした。私たちは、対外的に良いところだけ見せようとして、問題を起こしそうな生徒には、積極的に何かをさせようとはしていませんでした。ところが、劇団の方たちはそうした生徒にも、先入観なく認めたり褒めたりして接していました。問題を抱えた生徒も含め、すべての生徒に出番を与え、役割を成功させるためにかかわり、そして頑張りを認めることの大切さに気付かされました」(佐藤校長)
この体験を基に、教師がアイデアを出し合い、検討を重ねながら学校独自の「開発的生徒指導」をつくり上げていったのだ。
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