ベネッセ教育総合研究所 ベネッセコーポレーション
目標・指導・評価の観点を踏まえた学校づくりをどう進めるか
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これからの行政と学校の管理職の課題は
司会 評価規準を学校に照らし合わせて、個々の先生方の活動にきちんと落としていくために、行政や管理職の先生方は何をすべきなのでしょうか。
古川先生 教員が大学のときに評価について学ぶのは、教育心理学です。しかしせいぜい、評定とか標準偏差の出し方を学ぶぐらいで、いわゆる授業に生きる評価とか形成評価などを教えられてはいません。今後、教員養成段階で指導と評価について教えてもらうとか、あるいは大学の教科研究で評価規準表づくりをトレーニングしてもらうなどの必要もあるだろうと思います。
 教師になって5年間ぐらいは、毎日の授業と教材研究で手一杯で、評価規準表のようなものをつくったり、評価の構造をとらえるというのはなかなかできないですね。そういうときでも、校内の研修で意図的に場を設けてトレーニングとしてみるのも必要だろうなと思いますね。
 陣川先生がおっしゃったように、かつての授業研究では、板書や発問、教師の立ち位置などを議論してきましたが、最近、そうしたことは流行らないようです。やはり研究授業の場で評価規準表づくりをしたり、授業をつくり変えてみるという作業・研修を意図的に取り入れていくことが大事だと思っています。
 それから、教育委員会、教育センターがもっと指導性を発揮して、トレーニングの場、教材を提供する。国や都道府県の規準を柔らかく咀嚼し、市としてのモデルを出すとか。あるいは市の研究会、教務主坦者会とかの方々を集めて、トレーニングの場を提供する。そういう場がまだまだ少ないように思います。多くの自治体では、やっと規準をつくって、各学校に「活用してくださいよ」で終わっているし、規準づくりが終わっているところはまだ進んでいるほうかもしれません。
村松先生 まず、行政=都道府県の教育委員会が絶対評価についての考え方を示すことです。
古川先生 それは、入試制度、内申書も含めてです。
村松先生 2番目に、古川先生と重なりますけれども、評価規準表を県レベルまた市レベルで提示する。学校サイドは、校長先生がリーダーシップをとる。それがいちばん大事です。各学校をいろいろ回ってみて、静岡県ではとくに、校長先生が意識しているところは、かなり進んでいます。もうまったく心配いらないぐらいの状況までいっています。
 静岡県は、保護者の苦情が非常に少ないと思います。それは、静岡放送などで(評価規準のことを)報道していることもありますが、県議会の教育長答弁のなかでもこの評価規準についての話が出ています。それも、苦情が比較的少ない理由でしょう。
陣川先生 私は福岡市の教育改革専門指導員でしたから、1年間に60回くらいPTA、地域の会合に出ました。そこで話をして、PTAは安心してくれました。
 ただ、ある親がきいてきました。「福岡市の評価規準は、隣の市とどっちが(レベルが)高いですか」と。保護者としては、高校入試の調査書で高い点を取れる地域に住みたいので、場合によっては、隣の市に引っ越ししようかと考えるわけです。
 高校入試は県レベルのものですから、県レベルの評価規準がないと困る。県で規準をつくって、これ以上はそれぞれの実態があるから、市教育委員会でつくりなさい、学校でつくりなさいと。そして、焦点化して、精選しなさいという流れがいるだろうと思います。にもかかわらず、各地の教育事務所が事務所単位でつくったり、教育委員会単位でつくったりしている。
 福岡市は政令指定都市だから、評価規準をつくるのに県と連絡を取る必要はないですが、本来は県レベルのものがあって、それをもとにつくらないといけないのです。ただ、福岡市のものは、他の郡・市でも非常に喜んでいただいています。
 国は参考例を出したから、仕事をしたと思うんです。しかし、県レベルができていなかったと思うんです。
村松先生 県の教育センターに勤めていますと、各県の指導主事の先生方と、年2回ほど一緒にお酒を飲む機会があるものですから、それで、(評価規準を)いろいろと送ってもらったんですよ。埼玉県にあるものは立派だと国政研の工藤文三先生が話されたものですから、よくよく調べてみたら、確かに詳しく、体系化はされているんですが、学校評議員制度まですべて入ってきていて、先生方に消化できるのかなと心配になりました。
陣川先生 和歌山県の校長会の先生方が福岡市に来られたんですよ。福岡市の規準表を全部差し上げたら、「こんなものは、(評価規準とは)違う」と言われました。
 確かに、ここまで詳しくする必要はないかもしれません。しかし、もう一つ上の段階までは、県が、教育センターが本気で頑張らなくちゃいけない時期に入ってきている。
 もう1点言いたいのは、校長の目。「今日のあなたの授業では、何をいちばんしたかったの?」とひと言だけ尋ねる。そういう些細なことでもいいからやっていく。そういう言葉かけで、先生たちが目標をきっちりとらえて授業をしているかどうかを確実につかんでいくことが必要です。評価規準をつくっても授業がきっちりできなかったら何もならないわけですから。校長先生に期待します。
古川先生 何かといえば、校長のリーダーシップとか言われます…(笑い)。
村松先生 中間管理職も大変ですよ、なかなか。
古川先生 私はこれまで、教育センターや教材センター、教育相談センター、情報教育センター、研修センターなどいろいろかかわってきました。これからはもっと、「攻めに出る」カリキュラムセンターの役割が求められています。しかし、なかなかそこの機能ができていないですね。
陣川先生 ずいぶん変わってきてますよ。国政研の秩父先生が全国を回っていろいろ撮影されているのを見ても、教育センターは変わってきていると思うんですけれども。これからは、カリキュラムセンター的な、先生の指導力とカリキュラム的なことを扱っていく教育センターを充実させることが大事なことじゃないですかね。
古川先生 全国の市区町村に、260~270の教育センターがあります。私立を入れたら300ぐらいありますから、大事ですね。
 ただ、国はそういった役割を果たせるんですけれども、都道府県に下りた場合に、高校については直轄ですから、わりとやるんですが、小・中学校は直轄じゃないから、実態は「市町村でどうぞ」というふうになりやすいんですよね。そうすると市区町村の力量や力の入れ方で、かなりバラツキが出てきますよね。
陣川先生 今度、九州の各県の教育委員会を沖縄県も含めて回ったんですよ。私は学生の就職の問題があるから教職員課を回ったんですが、そのあと指導課へ行って、福岡市の評価規準表を差し上げてきたんです。
 非常に核心をついた質問をして、「ありがたくいただきます」と言われるところと、「ああそうですか」と軽い感じのところと、あるんですね。
 学校がどのくらい困っているのかを、学校から行政に言っていかないと通じない。私は16年間教育委員会におりましたが、だんだんに現場がわからなくなるんです。だからもっと現場の先生は、どんどん教育委員会に言っていく。教育委員会もそれを吸い上げる姿勢を持たないと、これからの教育はもっともっときつくなる。学校だけ、校長さんだけに、押しつけてしまうことになるんじゃないかなと思います。
 
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