職場訪問と事前・事後指導の中で少しずつ進路観を養成する
同校では、1年生を対象とした職場訪問が、例年10月初旬に行われている。'99年度を例に取ると25職種47職場、一つの職場を5名から9名で訪問した。わずか1日だけ、職場での滞在時間も1時間程度の短いものだが、陣内慶周先生によると「むしろ事前・事後の指導が大事」とのことだ。
事前指導のスタートは入学直後の宿泊研修。小中学校時代の夢、高校3年間をどんな目的を持って生活しようと思っているかといったことを作文に書かせることで、まず“自己理解”を促す。次はLHRでの“職業理解”。「自分にはどんな職種が向いているか」「自分は何のために働くのか」について考えさせ、また同時に『職業まるわかり事典』などの資料を使って、社会にはどんな仕事や資格があるかを調べさせる。これらの下地作りが終わった上で職場訪問に移行する。
職場訪問は、6月に生徒から訪問希望職種のアンケートを取り、訪問先が決まるのは夏休み中。訪問先決定後は、班のメンバーで質問事項を出し合ったり、正副担任を訪問先企業の応対者と想定した模擬職場訪問などが行われる。
「質問事項作りについては話し合いの時間を2時間ほど設けています。最初のうち生徒から出てくるのは『給料はいくらですか』などの表面的なものばかり。それを『どんな技術を身に付けなくてはいけないか』といった実質的な質問になるように教師が指導していきます。その過程の中で、生徒は少しずつ働くことに対する目を養っていくわけです」(陣内先生)
職場訪問後は、それぞれの体験を発表する「オンリーワン発表会」が11月初旬に待っている。各班の代表者が1、2年生全員の前で報告する。
職場訪問の成果として、森先生は2年次初めの文理選択の変化を挙げる。
「普通は教科の得意不得意だけで、文系クラスか理系クラスかを決めがちですよね。でも本校の生徒は、将来の職業も考慮した上で文系・理系を選択できるようになってきていると思います。そのせいか、従来は8クラス中文系5、理系3の編成だったのが、去年の3年生は理系4クラスになりました」
すべての生徒に達成感を味わわせたい
そして2年次は課題研究。生徒が自分の興味・関心を基にテーマを設定し、フィールドワークや文献研究などを行いながら、レポートにまとめ上げていくというものだ。校内の全教師がそれぞれ5人から10人の生徒を受け持ち、指導・助言に当たっていく。正式なテーマ決定は夏休み前となっており、生徒たちは主に夏休みを使って論文作成のための調査・分析、執筆に取り組む。そして9月中に論文を提出する。ちなみに生徒たちの研究テーマを見ると、「老人介護」から「くせ毛の直し方」までバラエティに富んでいる。
「テーマ設定は、あえて生徒の自主性に任せています。生徒の中には、将来進みたい学部や社会的な興味が明確な者もいれば、そうでない者もいます。前者の生徒には自分の進路につながるテーマや内容的な質の高さを求めますが、後者の生徒には長い文章を書き通す達成感を味わわせたい。どんな生徒にとっても意味のある行事にしていきたいんです」(井上先生)
この課題研究では、職場訪問と同じく事後指導にも工夫が凝らされている。生徒たちの作品の中から金賞、銀賞、銅賞を選出。さらに金賞受賞者には11月初旬の「オンリーワン発表会」で研究成果を発表する機会が設けられている。当日は教師と生徒が審査員となって、最優秀賞1名、優秀賞2名を選び出す。その様子は昨年も地元紙の佐賀新聞で紹介された。生徒のモチベーションを高めるには、またとないイベントと言えるだろう。
「『オンリーワン事業』を始めて変わったなと感じるのは、生徒の進学志望先ですね。かつては多くの生徒が地元の佐賀大志望だったのですが、今では『砂漠の緑地化の研究をするために鳥取大農学部に行きたい』というように、生徒の進路観が明確になり、かつ多様化しています。そういう生徒は言うまでもなく学習に対する態度も積極的です」(森先生)
進路指導を軸に、生徒の意欲を伸ばし学力向上に結び付ける試みに、小城高校は成功しつつある。
学力向上のためのその他の取り組み
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追試・追指導
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今年度の1年生に対しては、定期テストのみならず小テストでの追試・追指導の徹底を図っている。「これにより、授業についていくのが困難な層の生徒をフォローできるだけでなく、中位層の生徒も追試・追指導の対象にならないように日々の授業や試験を真剣に受けるようになります。全体の底上げを狙ったものなのです」(井上先生)。またクラス担任と教科担任が連携を取り、課題提出を怠りがちな生徒に対する個人指導も積極的に行っている。
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朝刊購読
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その日の朝刊5紙(朝日、毎日、読売、西日本、佐賀)のコラムと社説、生徒たちの間でトピックとなりそうなニュースをB4判の紙にコピーして、始業前の15分間全生徒に読ませている。それぞれの記事には担当教師による簡潔なコメントも添えられている。国語力を付けることと、社会的視野を広げることを狙いとしている。また同校では、生徒に表現力を身に付けさせることを目的に、ディベート大会を学校行事化することなども検討中だ。
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個人面談
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中間考査終了時や模試答案の返却時など、様々な時期に個人面談の機会を設け、個々の生徒の学習状況などを確認している。例えば今年度の1年生の場合、1学期だけで既に3度の面談を行っている。
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