新しい不登校
ここ10年で激増した不登校。
その原因にも最近変化が……
文部省の調査によれば、'99年度に心理的要因などで不登校となり30日以上学校を休んだ中学生は、過去最多の10万4164人に達した。これは'91年度の約2倍の数値だ。41人に1人が不登校の生徒という計算になる。
そんな中、最近増えてきていると言われるのが、外的には友人関係も勉学もさしたる問題を抱えているとは思えない生徒が不登校に陥る“何となく不登校”だ。新しい不登校の形を、現場の教師の声を元に探る。
東京都の公立中学校に勤務するS教諭は、ここ数年、不登校の生徒に新しいタイプが出てきたと感じている。
かつて不登校と言えば、人間関係で躓(つまず)き、学校に通うことが苦痛になるケースが中心だった。自室に閉じ込もり、外に出ようとしない。たまに外出しても、知り合いの顔を見ると逃げ出してしまう。大人が無理に学校に連れ出そうとすると、吐き気や頭痛、腹痛などの身体症状が出る。そういう生徒を、S教諭は何人か見てきた。彼らは学校に行かなくてはいけないと思いつつも体を動かすことができず、そのために社会的に落ちこぼれつつある自分に対して罪悪感を抱え込んでいた。
「でも最近、不登校の質がずいぶん軽くなってきた気がするんです。学校には来ないのに、日曜日には友達と遊んだりとかね。もちろん従来ながらの不登校のケースも多いのですが……」
快適な世界から抜け出せない
例えばA君。家庭の都合で親が家を離れなければならず、近くの親戚に預けられることになった。親戚宅は朝食が終わるとみんな働きに出てしまい、誰もいなくなる。朝、A君は学校に向かうが、やがて家に引き返してくる。そこで大好きなマンガを読みふけるうちに、学校よりも逃避的な生活の方が楽しくなった。そしてついにその世界から一歩も抜け出せなくなってしまったのだ。A君は時々登校するが、やはり学校に設置された相談室でマンガ本を広げていることが多いという。だが単なるサボリと判断して教室に送り込むと、腹痛を訴えて保健室や相談室に戻ってくる。
A君には、将来牧場で働き動物たちと一緒に過ごしたいという夢がある。「そのためには勉強することが必要だよ」とS教諭は諭すのだが、A君は「そこまで頑張りたくはないな」と乗り気ではない。
「怖いのは連休明けや夏休み明け。不登校の生徒が増えるんです。休日の快適さを味わうと、平日の学校生活を苦痛に感じるんでしょうね。昔は、友人関係がうまくいかず勉強も嫌いという生徒でも、高校には行きたいから頑張って通い続けようとしていました。でも今は、努力しなくてもそれなりに充足した毎日は送れるし、努力しても将来が保証されているわけではない。学校に目的を見いだせない生徒が目立つようになっています」
近年はフリースクールやサポート校など、公教育以外の学びの場も増えてきている。S教諭は、学校に行きたくても行けない従来タイプの不登校生にとってそれは朗報だが、A君のような不登校の生徒には有効ではないのではと語る。
「自閉的な空間から抜け出そうとしない限り、彼らは成長できません。居心地のいい場所ばかり用意してあげるのはどうかと思います」
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