VIEW21 2000.10  2000年・中学校・新事情

良い子が不登校になる

 鹿児島県の公立中学校で養護教諭を務めるK教諭も、新しいタイプの不登校が増えていると感じる一人だ。彼らの特徴は、否定形の受け答えしかしないことだという。「教科書は?」「なくなった」「食事は?」「食べない」「勉強は?」「意味ない」しなければいけないと思うができないのではなく、やりたくないからやらないのだ。
 「要するにわがまま。子どもの駄々のような感じです。でももう少し注意深く生徒たちを見てみると、単にわがままだけでは、済まされない気もするんですよ」
 K教諭が特に印象に残っている“わがまま不登校”の生徒を振り返ると、小学校時代に優等生だったケースが多いという。I君の場合もその例に当てはまる。彼は勉強熱心で、周囲からは真面目で優しい子と見られていた。中2の秋には生徒会選挙にも立候補して役員に任命されている。ところが3学期を過ぎた頃から授業に身が入らなくなった。保健室を訪れる回数も増えてきた。
 K教諭がI君と話しながら理由を探ってみたところ、どうも親との関係に悩んでいるようだった。「両親の期待する高校には、合格できそうもない」と言うのだ。
 I君はやがて学校を休みがちになった。精神科に通い、薬を服用していると本人は言う。「今は無理をして毎日学校に通わせない方がいいのではないか」とK教諭やI君の担任は判断した。だがそれが裏目に出たのかも知れない。中3になると授業にはほとんど出席しなくなり、教師の言葉にも耳を貸さなくなった。そして何もかも切り捨てたかのように「イヤだ、イヤだ」と言い始めたのだ。
 「それからのI君は手が付けられないわがままぶり。彼はたぶん、親が定めた目標に向かって頑張っていたんですね。生徒会に立候補したのも内発的な動機というより、内申点目当てだったのかもしれません。彼は親の希望を、自分の希望だと勘違いしていたのではないでしょうか。ある時期を迎えてそれに気付いたときに、I君を支えていたものがプツンと切れたんじゃないかと思います」
 S君の症状はもっと深刻だった。両親はやはりS君に対して県内有数のトップ校への進学を望んでおり、耐え切れなくなったS君は保健室登校を選んだ。保健室にいるときはK教諭にぴったりと寄り添い、他の生徒が入室しようとすると「追い出してくれ」と訴えたと言う。
 「彼らに共通しているのは、わがままを言いながらも、親の期待に応えられない自分に対して、自己否定の感情を抱いているということです。同時に、自分に期待を懸けてきた親への不満も口にします。だから私は彼らに対して『もっと自分を肯定していいんだよ。誰かの意見ではなく、自分自身の考えを大切にしようよ』と呼び掛けるようにしています。彼らがいつか自分の価値観に沿って、歩み出せる日がくればいいんですけどね」
 新しい不登校とは、現在や未来に希望が持てず、学校や社会に背を向けた状態を指す、と言えるのかも知れない。彼らは、浮遊したままどこにも着地せずに漂っている。


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