VIEW21 2000.10  新課程への助走
 新課程に向けた教科指導を考える

■英 語■
コミュニケーション能力の育成を柱に指導の見直しを

 新学習指導要領においては、実践的コミュニケーション能力の育成が最大のポイントとされている。
 「今まで以上に音声を重視した指導、すなわちオーラルコミュニケーションの授業の活性化や音読活動、リスニング活動を重視すべきだとは思う。しかし、現実的に対応できるかどうかとなると、なかなか難しい面もあるのが現状だ」(青森)
 この声に代表されるように、コミュニケーション能力の向上に対する意識は高いものの、具体的な方策についての提言は見られなかった。
 英語において特徴的だったのは、高校新入生の学力変化についての危機感が高いことである。中学校の指導内容では文法や語彙が基本的なものに精選されるため、高校で必要とされる英語コミュニケーション能力を育成するために十分な基礎力が付いていないことが考えられる。授業の精選をするためにも、中学校での指導内容は十分に把握しておきたい。
 「中学校の指導内容を教科全体で研究し、3年間を見通した効果的なシラバスを作成する予定」(静岡)
 また、高校新入生の学力を、最初にきちんと把握することが大切になるだろう。「まず中学段階までの学習内容の定着度を確認する」(長野)といった生徒の学力把握を綿密にしなければならない。
 さらに、指導内容の精選も迫られる。指導計画の立案を教科全体で行い、十分に吟味して行く必要があるだろう。
 「ミニマム・エッセンシャルの検討が必要。読み書きに最低限必要な文法事項をまとめ、頻度の少ないものはその都度、指導するという方法を考えている。分詞構文を例に取ると、授業ではhavingP.P.の形式を繰り返し指導しているが、実際の英文中にどの程度の頻度で用いられるかは疑問だ。リーディング、ライティング、入試で必要な知識を洗い出し、学校の現状に合わせて授業内容を精選していきたい」(山形)

英語科における中高連携
 中学校で使用している教科書を英語科の教師全員で研究し、各分野を分担して、中学校の教科書の文を中心に、高校入学時の導入教材を作る。新入生がスムーズに高校の英語に移行できるのと同時に、教師が中学校の学習内容・レベルを知ることができる。  また、中学校の英語教師との連絡会を年3回実施予定。生徒を中心に考え、お互いの情報交換が目的だ。中高の教師が互いに授業を参観するだけでなく、助言、ペアワークの相手役など、何らかの形で授業に参加することも検討中。中高それぞれが実態を把握し、指導力向上の一助としていきたい。(宮崎)

■まとめ■

 今回実施したアンケートからは、多くの教師が様々な教育環境の変化に対して悩みつつも前向きに取り組もうとしている姿が浮き彫りとなった。しかし、現状は手探り状態で、先の見通しが立たないこともまた否めない。
 今後、個々の生徒の個性を引き出し、同時に将来のために必要な基礎学力をしっかりと築き上げる指導が求められていく中で、実際に具体的な取り組みを行っていくことが、これからの教育改革の成否のカギなのかもしれない。
 最後に『総合的な学習の時間』に対する示唆に富んだ意見を紹介したい。

 「数学は思考力育成に非常に適した科目であると信じて、入試問題を通した思考力育成指導に傾注してきた。受験に強い生徒を送り出すために効率のよい解法技術を手軽に与え、頻出問題のプリントを課題として与えてきた。その結果、数学のみならず物事全般において「自ら考える」という訓練がなおざりになっていたのではないか、と反省している。
 だからと言って、学校でも家庭でも与えられた教育の中で育ってきた生徒を突然、突き放したとしても、「自ら考える」という行為が生徒の内側から湧いてくるとは思えない。大切なことは、「自ら考える」を身に付けさせるための計画的で段階的な訓練の継続である。
 物事を考える出発点は「なぜ?」という疑問の発生であり、その疑問を解くために「調べる」という行為が必要となる。人に訊く、辞書を引く、本を読む、インターネットにアクセスする、ボランティア活動に参加して体験する……。これらの「調べる」という行為の積み重ねこそが「自ら考える」力を付けるための段階的指導法であり、同時に自ら学ぶ自己学習力の基盤でもある。
 新課程で新設される『総合的な学習の時間』は、今までなおざりにされてきた「自ら考える」を育成するためには最適な時間となるであろう。特に、大学進学を目指す生徒が「自ら考える」「自ら調べる」「自ら学ぶ」を身に付けた上で進学していくことは、今後の大学教育の改革、さらには日本の将来にとって非常に重要であると思う」(青森・数学)


 これからの教科指導は該当教科内での工夫や見直しだけでなく、学校教育におけるすべての指導機会を有機的に活用していく視点が大切なようである。例えば、『総合的な学習の時間』を通して、国際問題や環境問題への意識に目覚めた生徒が、地理歴史・公民や理科を学ぶ重要性を理解し、受け身ではなく興味関心を持って、積極的に授業へ臨むといったようなことである。
 このように、新課程における新たな取り組みが「自ら学ぶこと」への積極的な姿勢を生み出すとするならば、授業時間の減少の中でも広がりのある教科指導は可能なのではないだろうか。

『総合的な学習の時間』と各教科とのつながり
『総合的な学習の時間』と各教科とのつながり

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