適切な進路に
導くために大切なのは、それぞれの「連携」だ。教師と教師、生徒と生徒、教師と生徒。そして、保護者と教師。同校では、1、2年次に年2回、3年次で年3回、保護者との面談を行い、保護者の意向を把握し、教師側の意見を伝える。
「保護者は、我が子を一番よく理解しているのは自分だと思っています。しかし、私たちは教師として、保護者にはない視点から生徒の進路を導く役割を担っているのです」(山田先生)
プロとしてアドバイスするためには、保護者を納得させるだけの材料を持っていなければならない。そこで、進路指導部では就職実績という客観的なデータを用いる。
「大学の名前だけで、いい、悪いを判断する保護者は多い。そこで、『日本の大学』(東洋経済新報社)や『大学ランキング』(朝日新聞社)、大学案内などを活用し、就職実績を提示しながら、その大学で何が学べるかを説明して、生徒の志望校を理解してもらうのです」(伊藤先生)
進路指導部が作成した、地元のA公立大と県外のB国立大の就職実績を、学部・学科別に対比させた資料がある。保護者は最初、A公立大を希望する。しかし、企業ごとに就職した人数が記されている資料を提示すると、学部・学科によってはB国立大の方が就職率が高いことを知る。資料は保護者の認識に一石を投じるのだ。
このような資料は進路指導部が随時作成し、担任に渡される。しかし、伊藤先生は現在のデータだけでは不十分だという。
「一つの企業内には、営業、企画、人事、開発など、いろいろな職種があります。どこの大学からどんな企業に就職しているかだけではなく、どんな職種に就いているのかまでを示す資料が公表されれば、さらに生徒の志望に添った進路指導ができるのですが……」(伊藤先生)
最近、教師が不安を
抱いているのは、進路の決定を子どもに任せきりの保護者が増えていることだ。
「以前、ある女子生徒が世の中の役に立ちたいから自衛隊に入りたいと希望しました。自衛隊と言えば、特殊な任務に就く仕事ですから、本当に仕事の内容を知っていて志望しているのか、保護者が承諾しているのか、気になります。そこで、自宅に電話すると、父親が出て、子どもの意志を尊重したいとおっしゃる。しかし、私が『世の中に役に立たない仕事があるのでしょうか。自衛隊は非常時には大いに役に立ちますが、日常生活では警察も世の中の秩序を守ってくれる大切な職業ではありませんか』。そう伝えると、『あっ……』と思われたようでした。そういう視点もあったのかと、そのとき初めて気付かれたようでした」(山田先生)
「子どもの意志を尊重する」。一見、もっともな考えに思える。しかし、子どもと正面から向き合わず放任した上での「消極的な賛成」であるケースが少なくない。教師はそれを見極め、保護者にも適切な進路指導を行わなければならない。同校では保護者を啓発する手段として、理事会も利用している。
「一学年約320人中、理事会に入っている保護者は約50人です。保護者の間では中心的人物の方もいます。年間4~5回ある理事会で、学校と保護者の連携の必要性、子どもを伸ばす進路選択とは何かを訴えています」(伊藤先生)
理事会に参加した保護者から他の保護者へ口コミの形で伝わってくれれば、と山田先生は期待する。
「受験を、ただの受験に終わらせず、生徒の人生を考える機会としてとらえたい。それが私たちが生徒にしてやれる、精一杯の努力ではないでしょうか」(山田先生)
まだある参考にしたい取り組み
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高校学習の導入指導
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1学年最初のオリエンテーションテストやノート点検を活用し、中学校の学習の理解度をチェックする。英・数・国を中心に各生徒の苦手な分野を発見し、高校での学習にスムーズに移行できる足掛かりとさせる。苦手な分野は教科担当の教師がサポートし、中学校とは異なる高校での望ましい学習方法を徹底させる。
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大学見学
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2学年の全生徒は、夏休みのオープンキャンパスなどを利用して、一人1校以上の大学見学に行き、大学についてまとめた報告書を提出する。県内・近県の国公立大に限定されるが、2学年の夏休みという早い時期に大学を体感することで、生徒に受験への自覚が生まれると言う。実際、大学見学の印象で志望校が左右されるケースも少なくない。
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