VIEW21 2000.10  特集 SIづくりから始まる学校改革

★SI構築が必要とされる背景★
生徒の変化と文教政策の転換への対応が必要


'90年代後半になって生徒の質が変化してきた

図1 カリキュラム編成の弾力化を進める理由  '99年、大学入試センター研究開発部は、全国の高校教員を対象に「カリキュラム編成」に関するアンケート調査を実施した(図1)。その結果「カリキュラム編成の弾力化を進めるべきだ」と考えている教師は88%に上ることが明らかになったが、注目したいのはその理由だ。「生徒の興味・関心の多様化」「進路志望の多様化」「学力レベルの多様化」など、生徒の変化に対応するためにカリキュラムの見直しが必要であるとする教師が多数を占めているのだ。現に目の前にいる生徒と向き合うために、教師は「これまでとは違った取り組みが求められている」と感じているわけだ。
 教師の声を集めてみると、生徒の変化については、特に'90年代後半になってそれまでにはいなかった生徒が入ってきたという感想を抱いているようだ。それまでとは異なり「当たり前の社会ルールが身に付いていない生徒」「受動的ですぐに答えを求めたがる生徒」「孤立を恐れて意見を言わない生徒」「物事を論理的に説明することのできない生徒」「計算力、漢字力など基礎的な学力が身に付いていない生徒」などが目立つようになったという。高校側としては(1)生活指導面での新たな工夫、(2)基礎学力の養成、(3)自ら学び、自ら考える力を付けるための仕掛けなどが必要となっている。



文教政策の転換で高校を取り巻く環境が変わる

 生徒の現状に対応するために学校改革やカリキュラム改革を行う。だがその際に留意しなくてはいけないのは、国の文教政策の転換だ。
 '02年度から完全週5日制が導入されると、生徒が学校外で過ごす自由時間が増加する。その一方で授業時間数は削減を余儀なくされる。全国的に高校生の自宅学習時間が減少傾向にあり、また「基礎的な学力が身に付いていない生徒」が増えていると言われるが、週5日制時代を迎えてこの傾向が続くようだと、学力低下の進行が懸念される。生徒の自学自習力を養うことがより一層重要となってくる。
 また完全週5日制への移行は授業時間数削減だけでなく、学校行事の精選も迫っている。さらに8月に出された文部省保健体育審議会の答申では「部活動は、土・日は休養日にするなど適切な運営に努めること」という提言があった。学校行事や部活動を、生徒の主体性や社会性を育成する仕掛けとして重視している高校は多いが、限られた時間内でどう効果的に取り組んでいくか、再検討が必要となっている。
 '03年度からは新課程もスタートする。「総合的な学習の時間」や「情報」科目の新設。そして必修科目は複数の科目の中から設定できる選択必修が基本となり、加えてその高校オリジナルの学校設定科目も設置できる。この学校裁量の拡大は、生徒の変化に合わせて「学校を変えたい、変えなくてはいけない」と考えている高校としては、追い風である。自校のカリキュラム改革、学校改革を進める際には、まず生徒の現状を把握し、国の文教政策の転換の流れをうまく活用しながら変革を進めていくことがポイントとなるだろう。
 このような生徒の変化と、文教政策の転換に対応した学校改革を実現することが、今、学校現場に求められている。その実現のために多くの学校では、まず教師間のコンセンサスづくりから踏み出している。それぞれの教師が個々に改革へのシナリオを描いているだけでは、新しい学校づくりは覚束ない。また、管理職や一部の教師だけで構想をまとめてしまい、それが多くの教師に行き届かないケースも同様に結果を出しにくい。大切なのは、各教師の「こんな高校をつくりたい」という発想を一つにすることだろう。全教員の思いを共通の言葉にしたSI(スクール・アイデンティティ)を構築すること。そして、SIを基に、すべての教育活動の再編を進めることが求められていると言える。


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