キレる中学生
いつキレるのか予測できない生徒たち。
キレやすくなった原因は……
'98年に栃木県黒磯市で起きた中学生による女性教師刺殺事件は、社会に大きな衝撃をもたらした。怒りをうまく自制できず突発的な暴力行為に走る“キレる”子どもたちの存在がクローズアップされた。
最近、マスコミは少年犯罪と少年法に関する議論に目が向いているが、報道が少なくなったからといってキレる子がいなくなったわけではない。子どもたちはなぜキレるのか。それはかつての子どもたちの荒れとどこが違うのだろうか。
普段は明るくへらへらしているような子が突然キレる。昨年、T教諭が勤める東京都の公立中学校に、そんな生徒がいた。
B君(当時3年生)は教師の前でキレたことが2回ある。最初はある日の昼休みの時間だった。B君は落としたキーホルダーを取りに職員室にやってきた。どうやらホルダーの中にはバイクの鍵もあったらしい。それがばれるのが彼としては怖かった。だからいつもは担任の教師がいる可能性の少ない、昼食の時間を狙って職員室を訪れたのだが、その日はあいにく担任教師はいた。「もう少しで授業が始まる時間だから、次の休み時間に出直しなさい」と担任は諭した。だがB君は「今返せば済むことだろ」と食ってかかった。しかし担任が譲らないので、B君はいきなりキレた。
B君は背の高い方ではない。いつもは学校の廊下などで教師とすれ違うとニコニコと挨拶をする。それが小さな体を少しでも大きく見せようとして、胸を張って教師に挑んできた。目つきも尋常ではなくなっていた。何人かの教師でB君を後ろから押さえ付けて、隣室に連れて行った。それでもまだ暴れ、その部屋のかなり厚みのある強化窓ガラスを殴り、ひびを入れた。
T教諭はその後どうなるか、心配しながら職員室にいた。1時間くらいたっただろうか、B君が他の教師と一緒に隣の部屋から出てきた。いつもの穏やかな表情に戻っている。そして担任の教師に向かって、とても軽い口調で「先生、さっきはごめんね。冗談だよ、冗談」と言ったのだ。「あれが冗談だろうか」とT教諭は思った。その軽さにショックを受けた。
B君が2度目にキレたのはそれからしばらく後のことだ。始業前に煙草を吸っているのを担任教師に注意され、激高したB君は武器になるものを探しに家に帰って、それから職員室に乗り込んだ。さすがに学校は騒然となった。B君がどんなストレスを溜め込んでいたか、T教諭は深くは知らない。しかしそれにしても、という行為である。「たぶん彼は自分がやったことの大変さに気が付いていないんだろう。今回も、冗談、冗談で済ませたかったんじゃないだろうか」とT教諭は思った。
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