★第一部 大学が変わる★
大学改革が目指す21世紀の大学像とは
機能分化・個性化で時代の要請に応える大学へ
大学審議会の答申「21世紀の大学像と今後の改革方策について」で強く意識されているのは、大学を取り巻く環境の変化だ。18歳人口は'09年度には約120万人にまで減ると予測されている。総合学科や単位制など、高校で履修する学習内容も多様化が進み、今まで以上に様々な学力を持つ学生が入学してくることが予想される。また、社会人の生涯教育に対する需要も高まりつつある。一方で激しい国際競争、メガ・コンペティションにさらされる中、大学が高い専門的能力と課題探求能力を有した質の高い人材を輩出しなければ、日本は21世紀に国際社会の中で没落してしまうという強い危機感が、産業界を中心に強まっている。
そこでまず答申が求めているのが、大学の機能分化だ。各大学が理念・目標に基づき、「総合的な教養教育の提供を重視する大学」「生涯学習機会の提供に力を注ぐ大学」「専門的な職業能力の育成に力点を置く大学」「最先端の研究を志向する大学」などに分化し、学生の質的変化への対応を促している。
高校現場には、この方向を当然と受け止める向きがある一方、大学間格差が今以上に拡大し社会階層の二極分化を促すという懸念もある。また、競争が残る一部の大学を目指す生徒はともかく、競争のない大学を選ぶ生徒のモチベーションをどのように維持するかという、既に直面している課題の深刻化を心配する声も聞かれる。
ともあれ、当の大学は学生の多様化に応じるため、機能分化はやむを得ないと考えているようだ(図1)。各大学が進もうとする方向に注目したい。
学部段階は教養重視、専門教育は大学院へ
答申は、学部段階、大学院段階での教育の在り方について、学部では教養教育及び専門分野の基礎・基本を重視し、本格的な専門教育を受けるのは大学院入学後にするべきだとしている。「学問の裾野を広げ、多角的に物事を見ることができ、自主的・総合的に考え、自分の知識や人生を社会との関係の中で位置付けられる人材の育成」という教養教育の理念・目標の実現のため、大学に全力を尽くすよう求めている。
しかし、高校では文理選択が行われ、選択制やコースの細分化が進みつつある。答申は、「高校の教育内容が多様化していることを前提として、大学の教育も当然その変化に対応した内容に変わるべきである」としているが、ここに今後具体的に解決されるべき高大接続の課題が横たわっていると言える。
出口については、卒業時の学生の質を確保するため、厳格な成績評価が強調されている。学生が1年間に履修できる単位の上限を定めることで、3年次まででほとんどの単位数を取得し、4年次は就職活動に充てている学生が多い現状を改め、最後までしっかり勉強させる。教員は成績評価基準をシラバスなどで明示し、事前・事後の学習指導を充実させ、教育内容・方法に関する組織的な研究・研修を実施し、質の高い教育を実現する。そして学生に対して厳密な成績評価を行い、安易な進級や卒業を抑えるというものだ。
大学院も機能分化、「専門大学院」設置を促進
一方大学院は今後進学者が増えることを前提とし、「研究者養成」「高度専門職業人の養成」と、それぞれの目的・役割の明確化が課題とされている。
特に注目すべきは「専門大学院」構想だ。特定の職業に必要な高度な専門知識・能力の育成に特化した実践的な教育を行う大学院修士課程、具体的には日本版ロースクール(法科大学院)やメディカルスクールの設置が検討されている。これらは該当学部以外の学部生や社会人の定員枠を相当数持ち、真に適性と能力を持った人材の輩出を狙いとしているものだ。高校側も、どの大学がどんな大学院の設置を考えているか把握していくことが必要だろう。
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