食の崩れが心身へ悪影響を与える
多くの教師が実感している生徒たちの生活面の変化と、それに連なる身体面、精神面での異変は、実はデータにも表れている。福山市立女子短期大の鈴木雅子教授(病態栄養学)は、中学生への食生活に関する調査を約15年前から続けている。きっかけは中学校の養護教諭になったかつての教え子たちから「最近、生徒たちの様子がどうもおかしい」と聞かされたことだった。詳しく尋ねてみると、生徒たちは注意力散漫でケアレスミスが多く、いつもイライラしているという。また疲労感を訴え、風邪も引きやすい。鈴木教授は「食事が関係しているのではないか」と考え、'86年に広島県福山市と尾道市の中学生1169人を対象にヒアリング調査を実施した。結果、明らかになったのは、食事状態が悪くなるほど「すぐカッとなる」「根気がなく飽きっぽい」「めまいがする」「学校に行くのがイヤ」など、心身面での異状が増えるということだった。男子を例にすると、食生活内容を5段階で評価し、数字が小さくなるほど食生活に問題があるとした場合、5の生徒のうち「すぐにカッとする」と答えた者は25.8%だったが、それが1の生徒になると88.5%にまで激増した。
「いじめや不登校、学級崩壊などの問題は、教育制度の面からのみ語られがちですが、生きることの土台である食が崩れていることも大きいと思います」(鈴木教授)。
益々悪化する生徒の食生活
問題なのは、'86年の最初の調査以降、生徒たちの食生活の状況が一段と悪化していることだ。鈴木教授は'90年と'97年にも福山市内の生徒に調査を行った。「毎朝、朝食を食べますか」「毎日、色の濃い野菜を食べますか」など、生徒にいくつかの質問項目に回答してもらい、それを得点化して4段階に分類するというものだ。その調査結果(表参照)を'90年と'97年とで比較すると、「良い」グループの生徒の割合が減少していることが分かる。
「朝食を取っていない中学生は、約2割に達しています。恐らく高校生になると、もっとこの割合は増加するでしょうね。また、主食と副食のバランスの取れた食事をしている生徒も減っています。『朝食を食べた』という生徒でも、詳しく食事内容を聞いてみるとチョコレート1枚ということも珍しくありません。親は子どもの欲しがるものを与えており、孤食化がそれに拍車をかけています。祖父母と同居している場合でも、ご飯は別というケースが多いですね。かつての家族の食卓像とは随分かけ離れたものになってきています」
保護者に1週間の食事メニューを書き出してもらうと、カレー、チャーハン、野菜炒めなど、レパートリーはいくつか出てくる。だが調理法が違うだけで同じ食材を使っているため、多様な栄養素を網羅しているとは言い難い。根菜類や豆類、海藻類、魚などがあまり食卓に上らない家庭も多い。
鈴木教授は、生徒たちに何をどう食べれば良いかを教える“食育”を、学校教育の中に早急に付け加えるべきだと語る。これまで学校の生活指導というと、服装や頭髪などの外見面だけに終始してきた嫌いがあった。だが対症療法では、もはや生徒は変わらない。自らの生活を振り返らせるような機会を、少しでも多く仕掛ける必要がある。
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