高校、大学それぞれの「顔」が見えた分科会
総括的な報告後、静岡大の入試科目である、英語、国語、数学、理科、小論文に分かれて、高校側からは入試問題評価分析担当者、大学側からは科目ごとの入試関係者が一つのテーブルを囲んで、分科会が行われた。どの科目も大学側からの参加者は2、3名、高校側からは5名ほどの教師が集まった。
分科会は、報告書の冊子を基に、入試問題分析を通じて感じたことや、入学生が抱える問題点など、意見交換がなされた。特に、高校側からの質問は、入試問題の出題意図に集中し、入試問題から大学側が求める生徒像をつかもうとしている姿勢が強く感じられた。議論が白熱した小論文の分科会では、高校側は、入試問題が学部の学問内容に即した設問になっていないことから、求める生徒像が不透明であることを指摘した。
「法学部の小論文なら法学部らしい視点を、経済学部の小論文なら経済学のセンスを問うような設問が適切と私たちは考えて指導しています。しかし、解答があまりにも自由な形になってしまう設問では、生徒は問題を目の前にして戸惑ってしまいます」
それに対して大学側は、その自由な発想こそ求めている能力だと答えた。
「大学としてはステレオタイプの解答ではなく、発想力を問いたいのです。ステレオタイプの解答が集まるような設問は避けているのです」
「それならば、大学側から生徒にこれくらいは読んだ上で受験に臨んでほしいという本のリストを作り、提示する方が的確だと思いますが」
また、国語の分科会では、大学側から高校の指導に対して要望が出た。きっかけは、高校側が設問に字数制限がないことを指摘したときのことだった。
「生徒からは字数制限をしない設問には何字ぐらいで解答すればいいのかという質問がよく出ます。なぜ、このような設問をするのですか」
すると、大学側は今後とも字数制限をするつもりはないと答えた。
「字数制限をしないのは、その生徒がどんな言語生活をしてきたかを見たいからです。設問に対してどう考えるか、オリジナリティーと発想力を求めています。自分の考えを論理立てて書いてくれればそれでいいのです。受験テクニックではない指導を大切にしてください」
英語や数学、理科でも個別の入試問題について、高校側の質問に大学側が答える形で話し合いが行われた。最初こそお互いに遠慮していたが、時間と共にかなり踏み込んだ話し合いに至っていた。30分間の予定を大幅に超えて終了した分科会もあった。
「来年以降も入試問題評価分析の取り組みを続け、高校と大学の連携を呼びかけていきたい」と語る4人の先生方。
高校と大学のチームワークで高めたい「静岡のパワー」
報告書の冊子だけではなく、お互いの本音を話し合えた分科会は、大学と高校、それぞれの立場を理解し、さらに建設的な意見交換に有意義だったと言えるだろう。大学側からはこんな声も挙がった。
「こういう雰囲気で入試について語り合えるなら、もっと他の先生方も連れてくればよかったと思います」
国語の分科会に参加した西野先生は、予想以上の大学側の反響に、冊子を作った意義を強く感じたという。
「高校から大学への流れが悪いと犠牲になるのは生徒です。入試について大学を批判するというよりも、一緒になって考えたい。冊子はそのきっかけになってくれました」
今まで生徒・学生を預かる現場の指導者たちが、その本音と問題点を語り合う場はあまりにも少なく、協力して教育をより良くしていこうという方向には向かっていなかった。その意味で、入試問題評価分析の報告書と報告会は、大きなターニングポイントになったと言えるだろう。
「進学指導連絡会」では来年度以降も、対象大学を県外にも広げた上で、大学入試問題評価分析を行っていく予定だ。そのためには、県外の高校の協力も必要になってくる。他の地域でも高校と大学が連携して、同様の動きをしているところもあり、さらにこのような取り組みが広がるきっかけになればとの思いもある。
「高校や大学に、教育に熱意ある同志の輪を広げ、県としてのチームワークを高めていきたい。先生の点と点が結ばれて線になり、さらに面になれば、静岡の力を底上げする大きな力になると信じています」(安達先生)
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