VIEW21 2001.02  新課程への助走
 中高連携が新課程で果たす役割を探る

2.学習定着度テスト
各段階で共通テストを実施し、学習指導の問題点を洗い出す

 児童・生徒の学力の実態を把握するために、「国語」「算数・数学」「英語」の3教科(小学校は2教科)のテストを、小学校5年生、中学校2年生、高校1年生を対象に実施している。問題は各教科の作問委員会が独自に作成・集計・分析をしている(表6)。

6 「学習定着度テスト」の結果と分析
国 語 小学校 全体的に言語の定着度が悪く、特に漢字の書き取り、文法、ローマ字の読みができていない。重点指導事項を洗い出し、系統的に指導して基礎の定着を図る必要がある。
中学校 漢字を書く力を定着させる必要がある。ドリル学習や小テストなどで漢字・語句の学力を向上させ、日常生活の中の表現活動(話す・書く)を指導していく必要がある。
高 校 語彙や文法の定着は良好。しかし、漢文の句法など古文・漢文の基礎力が不十分であり、小テストによる基礎の定着が必要。さらに、様々な文章を読ませ、読解力の育成も必須。
算 数 小学校 「数と計算」で正答率が低く、練習量不足がうかがえる。文章問題の正答率の低さも練習量不足に起因すると考えられる。単元の指導を弾力的に行い、考えさせる時間と定着のための時間を峻別し、定着のための練習時間を確保することが求められる。
数 学 中学校 指数や分数を使った計算問題の定着を図る指導が不足している。総合的な問題を解決する力を高めるために、いくつかの単元にまたがる課題学習への取り組みが望まれる。
高 校 基礎となる公式・定理の定着を図ることはもちろん、証明・利用法について繰り返し演習が必要。また総合的な問題を解決する力を高めるために、いくつかの単元にまたがる問題の演習も必要である。
英 語 中学校 コミュニケーションに関する意欲・関心はあり、問題にはしっかり取り組んでいるが、基本的な書く力が不足。リスニングは教育機器を活用したり、ALT(外国語指導助手)の協力を得るなどして、日頃から多くの英語に触れさせるべき。同時に、単元ごとに確認テストをするドリルが必要。
高 校 長文を大まかに読み取る能力は期待に添うものであったが、細かく正確に読み取る力は今一歩。発音にもっと注目させること、繰り返し練習させること、長文問題に多く当たらせて、長文読解能力及び速読力をさらにアップさせることが必要。

3.研究授業・授業研究会
問題解決能力と基礎力養成の並立が課題

 研究授業は、小学校、中学校、高校でそれぞれ授業を見学し合い、意見を述べ合う。
 1日で同じ教科の授業を系統的に参観できるよう、できるだけ互いに近い小学校、中学校を組み合わせ、1限目に小学校、3限目に中学校、5限目に高校で公開授業を行い、6限目以降に授業研究会を行った。授業研究会では小学校、中学校、高校が互いに新鮮な気持ちで授業を見られたことで、日頃気付かない点の指摘が数多くあった。
 小・中学校の教師からは、「小・中学校の授業は問題解決型で展開されており、挙手が多い。しかし、高校では依然として知識注入型の授業が多いようだ。中学校までに身に付けた積極的な態度を発展させるような授業はできないか」という意見が挙がった。一方、高校教師からは「問題解決型学習では問題解決だけに力を注ぎ過ぎて、基礎が定着していないのではないか。『覚えさせる』ことにも力を入れるべきではないか」との声が多かったという。問題解決能力の育成と基礎の徹底は別物ではないはずであり、ここが授業改革の要点になると言えるだろう。
 この研究授業は、高校教師が小学校の授業を初めて見たり、小学校教師が小学校で教えたことが中学校以降にどう発展していくのかを知る良い機会となった。今後はさらに交流を深めて授業の研究を行い、同じ分野でそれぞれどの内容まで扱うか、どこまでしっかりと定着させるかなどを協議し、より効率的に教育できるよう検討を進めている。

4.校務分掌部会
地域社会全体で子どもを育てる方法を模索

 教育課程などの教務面、生活指導面、進路面からも学校の枠を越えて協議するために、教務主任、生徒指導主事、進路指導主事ごとに分掌会を実施している。
 教務面からは、学習指導要領を踏まえながらも、児童・生徒が積極的に取り組む授業展開と、基礎がしっかりと定着する授業となるための工夫に関して話し合っている。
 生徒指導面では、情報交換を一層密にすると共に、各学校段階で協力することによって、児童・生徒を地域社会全体で育てるための検討を行っている。進路指導については、高校の実態や方針を十分に伝え、高校に進学する際に生徒自身の目的・目標が明確であるような進路指導を検討、研究している。

 約2年間の研究の結果、次のような点が課題・反省として挙がっている。小学校・中学校では興味・関心を中心にした問題解決型学習が主流であるが、反面、知識の定着が不足していること。一方、高校では興味・関心に意識を払いながらも大学入試などの関係もあり、知識の定着に重点を置いている。そのため、授業中、生徒の発表が少ないといった、積極性の不足が感じられるというものだ。
 宮崎南高校の取り組みからも分かるように、授業研究においてはそれぞれに参考とすべき点が多くある。問題解決能力と基礎学力を同時に習得させられる授業の研究が必要である。
 山下校長は2年間を振り返ってこう語る。
 「今後、さらに多くの教員が学校段階を越えて、授業参観・授業研究を行い、児童・生徒がスムーズに成長していけるように、より良い方向への研究・協議を重ねていきたいと考えています。昨年度からの実施なので、具体的な成果が出るにはもう数年かかるでしょう。しかし、私たち教師の意識革命には大きな効果がありました。『生きる力』とは個性、つまり自分にしかない長所を生徒一人ひとりが発揮できる力のことです。そのためには、今、私たち教師のできることを本気で考え、一歩ずつでも実行していきたいと考えています」
 宮崎南高校では'00年度大学入試で過去最高の成果を上げた。この結果は、現状に甘んじる事なく、常に改革に意欲的に取り組み続ける同校の姿勢と無関係ではないだろう。


<前ページへ

このウェブページに掲載のイラスト・写真・音声・その他のコンテンツは無断転載を禁じます。