VIEW21 2001.02  指導変革の軌跡 茨城県立並木高校

'99年10月中旬、
第1回「MY FUTURE」が開催された。獣医師の資格を持つ木嶋さんが講師として演壇に立った。家畜衛生試験場に勤務している木嶋さんは、獣医の仕事は動物の診療だけでなく、食肉が安全かどうかを検査する仕事もあることや、獣医学部に進んだ理由などを率直に生徒に語りかけた。
 もう一人の講師は高エネルギー加速器研究機構に勤務する保護者だった。勤務先が専門性の高い機関ということもあり、生徒が学習していない物理の話が端々に出てきた。講師には講演会のコンセプトを伝えていたが、詳しい内容に関しては一任していた。講師の思い入れのある専門的な話になるのはしかたないが、生徒は興味を持って聞いているのだろうかと教師たちは危惧した。しかし、それは杞憂に終わった。
 「生徒に感想を聞いてみると、『難しかったけど、面白かったあ』と言うんです。話を理解できなくても、大人が楽しそうに自分の仕事について話している姿にぐいぐいと引き込まれていったようです」(大内先生)
 第1回を無事に終え、自分たちが考えた方向性に確信を持った学年委員会はその後も「MY FUTURE」を企画。第7回までに、延べ600名を超える生徒が参加している。講師陣は気象研究所、筑波大教授など、多彩な顔ぶれが並ぶ。中でも、中学校教師を招いたのは、高校の教師にとっても良い企画だったと話す。教師を志望する生徒は多いが、普段接しているだけに自分たち自身で教師という職業を客観的に生徒に説明することは意外と難しいと感じていたからだ。
 女子生徒を主な対象とし、20代の女性を2名講師として招いた講演会は、生徒に好評だった。講師の年齢が生徒に近いということ、結婚と仕事というテーマだったため、生徒は自分のことに置き換えて考えられたようだ。
 だが、講師の中には、現在の仕事に就くまでに様々な紆余曲折を経ている人もいる。進路選択のための講演会が、かえって生徒に迷いを生じさせるのではないか。そんな疑問に、進路指導部長の菊池清彦先生は笑いながら「迷いも発展の一種です。自分の将来のことなんだから、大いに迷うべきなんですよ」と答える。生徒の個々の悩みには年数回の個別面談や日々の学校生活の中で、クラス担任を中心に教師らがフォローしていけばよいと考えている。
 「いろいろな職業の方に話を聞く中で、生徒は職業そのものよりも人間の生き方について学んでいるように思うんです」(菊池先生)
 「講師の方にはできるだけ、失敗したことを話してほしいと依頼しています。講演会は進路指導の特効薬ではありません。じわじわと生徒の心に効いてくれればいいと思っています」(大内先生)
 インターネットや情報誌で就職や進路の情報が溢れている世の中だからこそ、身近な大人の肉声が生徒の心に大きく響くのだ。

保護者の協力のもと、
一見、うまくいっている講師選びのようだが、問題がないわけではない。
 「商社や金融、流通関係は生徒からの希望が多いのですが、一般企業に勤めている方の場合、放課後に当たる時間に学校に来ていただくのは難しい。せっかく講師を引き受けてくださったけれども、時間を調整できずに実現できないケースもありました。クラス担任から保護者の情報を集めたり、公募をしたりしていますが、バランスよく文系と理系から探すのは一苦労です」(大内先生)
 2学年最後となる次回の講師には、事故で車椅子生活となってもビームライフル選手として活躍中の鈴木ひとみさんを招くことが決まっている。マスコミにも登場する人を講師に招くのは初めてだ。聴講のきっかけは興味本位であっても、彼女から人として生きる姿勢を学んでもらえればそれでよいと飯塚先生らは考えている。
 「自分に何が向いているか分からないからいろいろな話を聞いておきたいと、7回の講演会すべてに出席したという生徒も数名います。生徒の貪欲な『知りたい』という欲求に答えるために、今後も学校全体の取り組みとして『MY FUTURE』を発展させていきたいですね」(菊池先生)
 「様々な方を講師に迎えて話をうかがう中で、実は一番勉強になっているのは私たち教師ではないかと思っています。私たち自身が視野を広げて、生徒にいろいろな可能性を提示できればと思います」(飯塚先生)

まだある参考にしたい取り組み
65キロウォークラリー
 1泊2日の日程で65キロの道のりを歩くウォークラリーを毎年9月の最終土・日に行っている。開校3年目からの伝統行事として全校生徒約1000名が参加する。足を引きずりながらのゴールに涙を流す生徒が続出。保護者も1000名分の豚汁を用意し生徒を迎える。この行事が生徒と教師、保護者の連帯感を高める。
大学進路説明会
 第2学年の10月に実施する進路説明会では、茨城県内を中心とした9大学11学部の大学の先生方を招き、大学の特徴と先生方の研究内容について語ってもらう。生徒だけでなく、保護者も自由に参加できる。それぞれが希望する2つの学部について聴講できるシステムとなっている。

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