教師間の共通認識をどう確立したか
研究学年会などを通して図られる教師間の認識の共有化
同校の研究体制や指導内容は、'99年度と'00年度とではいくつかの変更点が見られる。まず1年次に関しては、上五島高校を知るための取り組みを前半に、後半は職業人へのインタビューや図書資料を使った職業調査を実施した。
「実は'00年度も年度当初は、'99年度のやり方を踏襲する予定でした。しかし夏休み前になって、『このまま“見つめよう高校生活”を打ち切っては、浅い内容で終わってしまうのではないか』という提起が教師の間から出されたのです。調べ学習に終わらせず、提言のレベルにまで高める必要があるというわけですね。何度も会議を開いて議論した結果、『見つめよう高校生活』を通年展開することになりました。かなり揉めましたが、でもそのことが『進取の時間』の目的を教師間で共有する上で役立ったと思います」(橋本先生)
もう一つの変更点は一学期の半ばに、研修部メンバーを中心に小人数で構成されていた研究企画委員会を発展解消して、さらに拡充した研究推進委員会を発足させたことだ。従来のメンバーに加えて、各学年推進担当、情報技術科主任(同校には普通科のほかに工業科もある)などが参加した。
「本格的な実践に入った'00年度は、企画主導による推進より、実際の取り組みを通して得られるノウハウを研究に活かしていくことがより重要になってきました。そのため、多くの教師の知恵が活かされる組織編成にしました。まさに上五島高校もこの取り組みを通して、生徒と同じように課題解決学習をしているんです」(石井校長)
実践の中で軌道修正しながら、より良き方向を模索する様子がうかがえる。
『進取の時間』に対する教師間の認識の共有化は、その他の場面でも図られている。1年学年会は毎週月曜日に、2年学年会は火曜日に研究学年会を開催。指導案の作成をしたり、授業で直面した問題について話し合っている。
また、同校では、「進取の時間」の今後の参考とするため、様々なアンケートを行っている。例えば'00年度には、「進取の時間」と担当教科との間にどのような相互作用があったか、教師に対してアンケートを採った。また、'99年度末には、どんな力が身に付いたか、生徒に自己評価を行わせる内容のアンケートを行い評価の参考とした。
「'99年度に行った生徒の自己評価に関するアンケートは実験的なものです。生徒には『調査活動に積極的に参加したか』『調査活動のやり方がよく理解できたか』などの質問項目に4段階で回答してもらいました。そのアンケートを参考にした上で、『学び方・考え方』『主体性・創造性』『生き方を考える』の三つの観点から評価を行い、指導要録の『指導上参考となる諸事項』の最下段に記載しました」(嶺先生)
図2 ● 総学のすすめ
教師間の認識の共有化を図るため、研修部はまず「総合的な学習の時間」の認知を高めようと「総学のすすめ」を作成した。
生徒だけでなく教師対象のアンケートを実施し改善に役立てる
中間発表直後に、'00年度に初めて「進取の時間」に取り組んだ1学年の教師に対して行われたアンケートからは、既存教科とは異なる授業形態に戸惑う教師も少なくなかったことがうかがえる。「5、6月はどの程度助言していいか分からず、言葉少なになっていた」「各班の班長を活用できなかったことが反省点である」など、生徒への支援の難しさを痛感する声が寄せられた。他に「もっと生徒に取り組みの進度や活動の進め方、評価基準などについての情報を与えた方がよい」「生徒がテーマを決めるとき、参考資料として数パターン示すことを考えてもよいのでは」といった、具体的な改善策も出てきた。模索しながら取り組んでいる「進取の時間」を、少しでも良いものにしようという教師の思いが伝わってくる。
取り組みについては、まだ課題が多いと感じる教師は少なくない。しかし、教師間の共通認識にはやはり経験が一番の妙薬であるようだ。1年次に「進取の時間」を経験した現2学年の教師間では、さらに共通認識が深まっている。
「恐らく2学年のほぼすべての先生が、『進取の時間』の重要性を実感していると思います。一番の原動力は生徒の様子なんです。発表会である班が優れた発表をすると、他の班も負けじと頑張る。教師の予想を越えて、生徒がお互いに質的に高め合おうとしていますからね」(嶺先生)
'01年度の3年次の「進取の時間」は、地域に関するテーマでディベートを行わせるなど、表現力の育成を図る内容を考えているという。'01年度、研究開発校として同校の「進取の時間」はいよいよ総仕上げを迎える。
<前ページへ
|