VIEW21 2001.02  創造する 総合的な学習の時間

地域が直面している課題を、テーマ設定の中に取り入れる

 一方、2年生の「ふるさとを見つめ、これからの社会的課題について考えよう」では、地域活性化のための提言作りが目標だ。上五島高校のある町は、過疎化や少子・高齢化、雇用問題など様々な問題を抱えている。その課題に真正面から向かわせようというものだ。生徒は「環境問題」「福祉・健康面」「国際理解」「郷土研究」などの各視点ごとにクラスを越えたグループ・班を編成し、実際に学校外に飛び出して調査活動を開始。テーマは「福祉・健康面」なら「老人保健施設を訪問して現状を知る」、「郷土研究」では「太鼓を通して上五島を活性化する方法」など。優秀な調査成果を上げた班は2月中旬に、地元の人を招き公会堂で行う公開発表会で、その内容を報告する。
 この取り組みのポイントは、テーマ設定を“地域”に絞った点にある。企画段階では、生徒に自由に選択させる案もあったというが、そうしなかった背景を石井勝典校長は次のように語る。
 「成果物は、実際に学校外の人々に提言できるような社会的価値のあるものにしたかったんです。その方が生徒たちの意欲も高まります。『総合的な学習の時間』は課題設定が難しいと言われますが、私はそうは思いません。課題なんて探さなくても、向こうからどんどんやってくるのが私たちの生活の現実です。この町で言えば、高齢化が進み、生徒たちは高校を卒業しても地元での就職先がありません。そういった様々な問題に、高校生としてどう考え何をしていくか。それに向き合うのが『進取の時間』だと考えています」
 確かにテーマ選びを生徒に任せた場合、例えば環境問題に興味のある生徒は「南極のオゾンホール」を取り上げ、国際問題を考えたい生徒は「地雷問題」を追究するかも知れない。これらは人類共通の課題ではあるが、高校生の研究が現実社会に何らかの影響を与えることはほとんどない。そのため同校では、「総合的な学習の時間」でよく取り上げられる環境、国際化、福祉、情報などを考えることそれ自体を目的とはしていない。それらを「地域活性化」という目的にアプローチするための手段として捉え、生徒に身近でかつ社会的価値のあるテーマを設定させている。

図1 ● 第2学年「進取の時間」学習の記録
図1 第2学年「進取の時間」学習の記録

左は「進取の時間」の年間予定表。右は毎時間の計画と実際に学習した内容、感想を記入するようになっている。欄が一杯になったら紙を上に貼り足していく。
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